※パラレル





 昔、近所にすっげえきれーな子が住んでいた。1年もしないうちに海外に引っ越しちゃったけど。名前は忘れた。でもなんでか、顔とかは妙にはっきりと覚えている。たぶんハーフかなんかでちょっと日本人ばなれしていたから印象に残ってんのかなあ。
 ブロンドの髪の毛は一本一本がやけに細くて、良い香りがした。茶色がかっていたのか、今の俺みたいな金髪ではない。染めたわけじゃないから、人工的ではなく自然な色合いで、金色のような綺麗なブロンドだった。あと、くせ毛なのを気にしているのか、時折髪の毛のハネをいじっていた。目の色は薄い青で、ずっと見ていたいと思わされたし、実際見ていた。嫌がられたけどね。肌も白くって、ほんとそこらにいる女子よりよっぽど白かった。
 なんでこんなことを思い出したのかというと、どうやらその子が帰国してくるようだ。その子の家はお金持ちで、今も当時住んでいた屋敷が空き家にせず細々と管理されていたけれど、この間から人がやたら頻繁に出入りするのを見かけ、気になって聞いてみた。そしたら帰国して日本で暮らす、と教えてもらい今に至る。
 恥ずかしい話、きっと俺はその子が好きだったに違いない。だからこうして思い出してその子に思い馳せてるんだ。乙女思考な自分に笑うことしかできなかった。


 気がつけばその子が帰国する日になっていた。あれだけ待ち遠しいと感じていたのに、いざ当日になると会うのが怖い。俺のこと覚えてなかったらどうしよう、とか。(俺だって名前覚えてねーんだもん)
 いつもぐうぐう寝てばっかの俺でも、この日ばかりは全然眠気なんかこなかった。むしろ気になりすぎてそわそわしてばっかだ。流石に鬱陶しいのか、家族に文句を言われたくらいだ。
 結局邪魔だと家から出されてしまった俺は、その子が住む、あの大きな屋敷へ向かうことにした。まだ到着してなかったら、近くを歩いて時間を潰せばいい。
「じろ…?」
 屋敷にもうすぐ着く手前で、誰かに名前を呼ばれた。辺りを見渡すと、自分より背の高い少年がこちらを見ていた。逆光で顔を窺うことができないが、きらきらと光を吸収したかのように輝くブロンドだけははっきりとわかった。ん…?そういやブロンドって…。
「やっぱりジローだ。最初は金髪になっててわかんなかったけど。なあ、俺のこと覚えてるか?」
 嬉しそうにこちらへ寄ってくる少年は、昔遊んだあの子の面影があって、ようやくあの子は男だったのかと知った。
 呆然としている俺は何も反応できずにいたけど、勘違いしたのか彼は俺が覚えていないと思ったようだ。
「よ、よく遊んだじゃねーか。この近所にある公園で一緒にブランコしたり、砂山作ったりとか。まさか本当に、覚えて」
「けい…?」
 忘れたとばかり思っていた名前はいとも簡単に、するりと出てきた。
「なんだ、覚えてんじゃねーか。けいもとい、景吾だ」
 ふわりと笑った表情は綺麗で、俺の初恋の相手は久々に会ったら美少年に様変わりしていた。





「けいは俺の初恋だったんだよ」
「へえ、俺ってば昔っからモテたんだな」
「…もっと驚くとかしてもいいんじゃない?」
「俺が驚いたところで何かが変わるのか?」
「そーじゃねーけどさあ…」
 景吾と再開して1ヶ月が経った。会わなかった間なんてなかったかのように仲良くなったし、今もこうして景吾の部屋に入り浸っている。
 この1ヶ月でわかったことは、景吾はかなり変わった。外面も内面も。とくに性格は変わった。昔は大人しかったのに、今は平気で粗暴なことを言うし、結構派手好きだ。
 だから昔の景吾が良かった訳じゃない。今は妙に突っぱねる癖に、相変わらず寂しがり屋なところは健在で、時折甘えてくるのはほんと可愛いなあってなる。やっぱり男とか関係無しで、景吾が好きなんだなって実感した。
「お前は昔の…、けいが好きなのか?」
 こちらを見る景吾の表情は至って真剣そのものだった。
「…うん、好き」
「そう、か」
 ふ、と目を伏せる景吾がどこか悲しそうなのは気のせいじゃないはず。あー、勘違いしてるんだろうな。
「でもねえ、景吾も同じくらい好き。冷たい態度取るくせに構って欲しくてたまんないのとか、一人が嫌いで寂しがり屋なとことか、いとしくって大好き。けいも景吾も大好きだよ」
 ぎゅうう、と力一杯抱き締めると、いてえよ馬鹿と言われてしまった。満更でもないくせに、馬鹿はひどくね?
 ムスっとして景吾を見ると、頭を撫でられてしまった。些細な苛立ちはどっかへすっ飛んでしまった。うーん、これで許しちゃう俺ってやばいかな。甘すぎるかな。
「…俺も好き。ずっとずっと好きだった」
 涙を浮かべ、俺を好きだと言う景吾は、いつも以上に綺麗で、いとおしかった。無意識の内に唇を重ね合わせ、キスをした。荒れていない、手入れをされた唇は柔らかい。
 好きだなって気持ちが、どんどん膨れていくのを頭の片隅で感じた。





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