赤い海
 

地球は青かったとユーリイ・ガガーリンは言った。
その青い地球の写真を見ても、私には白黒の写真にしか見えず、母は私に嘘の写真を見せているのだと勘違いして、何度も本当の写真を見せてとせがんだことがある。
その度に母は私に、疑り深い子ね、と呆れていた。

みんなが海は青いという。
青という色のイメージを問えば、冷たいとか、冷静だとか、そういった返答が返ってきた。
私の世界では海は濃淡のある白と黒の色をしている。
押し寄せる波は淡い白。
沖に見える水平線は深い黒。
みんながこれを青というなら、これは青なのだろう。
私にはただのモノトーンにしか見えないが。

あまりに写真を疑う私に母はどうしてそんなに疑うのかと問う。
私はそれに、だってそれは白黒写真じゃないかと返した。
母は戸惑い、病院へ連れて行くと色盲、しかも青色限定での色盲だと診断された。
医者は珍しいと言った。
それから私は海の青も地球の青も、色盲なら仕方が無いと諦めた。
ただ名前だけが好きになれなかった。
清水あさぎ。
水を連想させる名字と、みんなが綺麗というあさぎ色。
私にはモノトーンにしか見えない名前である。
色盲だと診断された時には皮肉な名前だと思った。
海も名前も、あまり好きになれなかった。

ただ水は好きだった。
透明な水は色もなく、みんなと同じ色が見えているのだろうと思えば、少し安心できた。
だから水泳は好きだ。
白い飛び込み台から透明な水へと飛び込む。
向かいの白い飛び込み台目掛けて泳ぐ時に色は無い。
それが安心できた。
青だとかモノトーンだとかを忘れられる時間だと思えた。


水泳部の活動が終われば海辺の道を自転車でゆく。
帰り道には赤く照らされた海。
夕焼けの海は好きだった。
私にも見える色だから。
透明な水に浸り、その後赤い海を見て帰る。
少しでも私の世界から青というモノトーンを消したかった。



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