Novel


「ヴィルくん、お腹大丈夫?」

赤髪のツインテールが揺れる。
心配そうに聞いてきたのはアリーチェだ。

「ん、大丈夫だよ。チェルヴィ呼んでくれたんでしょ? ありがとうね」

そう言って優しく頭を撫でると、アリーチェは目を細めて笑った。
先日鋼鉄の如き硬さの何かを腹にくらったが、今ではもう痛みもだいぶ引き、ドス黒い打撲痕が治るのを待つだけだ。
打撲痕を思い出して腹が鈍く痛んだ気がした。
そこをさすっているとカランカランと店のドアに付けた鐘の音がした。
ドアを開けたのはふわふわの金髪の少女と、後ろには−−姉妹だろうか? 背の高い緑髪の少女がおどおどとしながら金髪の少女に手を引かれている。
金髪の少女は幼げな顔には不釣り合いな程の煽情的な身体をしている。
対して緑髪の少女はスラリとした細身を黒いスーツで包んでいて、対照的な2人は店内の視線を集めた。
金髪の少女が緑髪の少女を呼んだ。

「レオネ、あのお菓子面白いわよ」

そう言って少女が指差す先には、駄菓子屋店員であるシュガテールがオススメする目玉キャンディ。
グロテスクな見た目の割に色とりどりの虹彩は、窓から差し込む光を受けてキラキラと輝いている。
それに近寄り数個を手に持つと、金髪の少女はレジに進む。
金で縁取られた青い瞳と同じ色のキャンディを手のひらでコロコロと転がす金髪の少女と目が合った。
途端に目を見開き俺を指差して少女は叫ぶ。

「あんた!! あの時の変態!!」

少女の声が店内に響く。
あの時とは?
何のことか分からない俺に少女は歩み寄り、胸ぐらを掴んで俺の顔を引き寄せた。

「貴方、まだ懲りてないの? 後ろに隠した女の子に何するつもり?」

そう言って凄んでくる金髪の少女に見覚えはない。
後ろに隠した女の子、というのは、俺の後ろに立っているから隠れている形になるアリーチェのことだろう。
俺の背中越しに金髪の少女を認めると、アリーチェは「あっ」と声をあげた。
どうやらアリーチェはこの少女を知っているらしい。
ぎゅっと俺の腕を掴み、胸ぐらを掴む少女から俺を引き離す。

「違います! ヴィルくんは悪い人じゃないです!」

そう言って少女に負けまいと見つめ返すアリーチェ。
どうやら俺だけが状況が把握できていないようだ。
アリーチェの言葉にたじろぎバツが悪そうな表情の少女に、緑髪の少女が窘めた。

「ティーナ、いきなり…掴みかかるのは、ダメですよぅ…」
「でも、この人、この前もこの女の子に変なことしようとしてたのよ!」
「違います! あなたにはそう見えたのかもしれないけど、それでもいきなり飛び蹴りしてもいいとは思えません!」

金髪の少女の言葉に噛み付いたのはアリーチェだ。
アリーチェの言葉から、どうやらこの前の腹への衝撃はこの少女によるものらしい。
体も小さいこの少女の柔らかそうな足からは、あの時の強烈な衝撃は想像できない。
何か武術でも習っていたのだろうか。
というより、俺はこの少女に変態だと勘違いされて飛び蹴りされたようだ。
ようやく状況が掴めた。
先程のアリーチェの言葉で三人とも押し黙り、金髪の少女は俺を睨むし、そんな少女の後ろで緑髪の少女がおろおろとしているし、アリーチェは俺の腕を掴み少女を威嚇していた。

「あの、とりあえず、店内でこんな話するのもアレですし、奥に行きましょう」

店内の視線もそろそろ痛い。
促すと、渋々頷いて、少女達は俺の後に続いて歩いた。





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