「お体に障ります、もうお休みになってください」


ぼんやりと灯火だけがこの部屋を照らす
辺りはしんと静まり返り、ふたりの姿だけが闇に浮かびあがる


「もう、少し…月を見ていたいんだ。君とふたりで」


君が傍に付いているし、いいだろう?
そういう意味を含んだ言葉に、
彼女はしょうがないですねと一言呟くと障子を開き
月と向かい合うようにして縁側に腰かけた
その隣に僕も座り、ふたりで戯れの会話を交わす

まずは今日の月の話
そして、床にふせってから、彼女から聞く、この部屋の外での話
どれも彼女と交わす言葉ひとことひとことが愛おしい
この時間が永遠に続けばと願う一方、心の中では違う感情も芽生える


「君には感謝している。それと同時に申し訳なくも思ってる。僕に付きっきりで看病をさせてしまって…」


唐突に切り出した言葉…

その言葉は僕の本音
けれど、それ以上の本音は口にできない

彼女は三成君と恋仲だった
彼女は彼を愛していたし、彼も彼女を心底愛していた
ふたりは想い合っていた

そして…僕も彼女を愛していた…否、今でも愛している

この死病を言い訳にして、傍に居させる僕の我が儘
気付いているだろうか…
こんな汚いやり方で、傍に居たいと願う僕の醜い心を…
いつか僕の命が終わるとき、その時までは…

傍に居ることを赦してほしい

そう願いながら、ただ月を彼女と見つめる
あとどれぐらい、これほど幸せな時を過ごせるのだろう

この想いを口にすることは今生決してない
あってはならないし、口にするつもりもない
僕だけがこの気持ちを持って逝ければそれが一番いい筈だ

想ったことに後悔はない

ただ、君をもっと深く愛したかった
こんな関係ではなく、もっと違う関係を築きたかった

何を間違えたんだろう?
何処で間違えたのだろう?


でも、変わらない関係の中でただ思う


君を愛せたこの気持ちは無駄ではなかった

だってほら、こんなにもこのささやかな時間が僕の心を満たすから


「月が…綺麗だね」

「ええ、とっても」


届かない想いは、無駄なものなのでしょうか


(この言葉の真意は僕だけが知っていればいい)
(ただ、君を愛してる)



――――――――――――
企画サイト「明けの明星」様に提出
半兵衛の「月が…綺麗だね」は、
夏目漱石が「I love you」を月が綺麗ですねと
訳したことから作品に使わせてもらいました。





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