12
 

私は、腹が立ってしまったのだ。
だって、話を聞いてくれなかった。勝手だ。そもそも待っててって言ったのは大地くんだ。それなのに、何も聞いてくれなかった。
それと・・・。黒尾くんとの事を見てショックを受けてくれたんだとしたら、多分、大地くんの好きな人は、その、私かもしれないから。私の気持ちに気付いていると思ってたら気付いて無かったけどね!

・・・勿論、怖い。これから先も思ってくれるとは限らないし、私が伝えようとしているその頃には、別に好きな人がいたり、恋人がいるかもしれない。

だけど、私の気持ちは変わらない。
後悔したくない。

だって、奇跡だ。

こんな素晴らしい世界に生まれた。たくさんの出来事をこの目で見れた。
それなのに、後悔なんて絶対にしたくない。


そう、決めたんだ。





合宿も終わり、部活部活の毎日。
幸いにも、大地くんとの仲は気不味くなることもなく、今までと変わりない。

・・・だけど、何だか煮え切らない。ここは、私も言ってやろうとまた一つ決心をする。いつ言おうか考えてるうちにも日々は過ぎて行く。

そうして、春高一次予選を明日に控えた日。
先生から対戦表が配られる。

「明日の予選、2回勝てば10月の代表決定戦へ進出出来ます。」


「えっと日向さん、」
「あ、はーい。」

と、明日の対戦相手の情報をまとめたものを配る。

「?!2メートル?」

・・・当日キャーってなるよりいいかなぁと思って作っておいたのだ。
春高予選、決して楽に勝てる相手はいない。だけど、全ての試合、勝って優勝して、東京に行ける事を知っている。私だけが知っている事。
でも、いつイレギュラーが起こるかわからない。変わらない保証なんてどこにも無い。



何度も読み返した。あの頃から長い時間がたっているから細かい数字は覚えていない。だけど大凡の話の筋は入っている。
ここまで来たら、私の出来る事は相手チームの情報を事前に伝えるだけだ。
些細な事だ。話に聞くのと実際に対戦するのとでは全然違うだろう。だけど、聴いてると聞いてない、だと大きく違う。
烏野は他校から見ると通常よりもトリッキーな試合をする。だけど、それは基盤があってこそ。
基盤となる選手が考えて相手を打ち崩すからこそ勝てるチームだ。
その考える事が出来る人に必要な情報だ。



「1回戦はシードです。扇南対出羽一と勝った方と対戦ですけど、最近の練習試合の傾向からいって扇南が勝つ可能性が90%。扇南は元々2年が主体だったので今までの情報からして注意すべきは1番の子くらいです。」
「で、勝ったら2試合目、西田対角川。角川は2mの百沢くん。1年生で、バレーは始めたばかり。だけど、この子が入り出してから飛躍的に勝率が伸びてるので、恐らく角川が対戦相手となると思います。百沢くんは身体能力未知数ですので、どのレベルかわからない。リエーフ君みたいだったら厄介だけど、そーでも無いと思います。」
「おぉ・・・」
「やべーな2mとか」
「さちさんの情報収集力のがヤベェよ。」
「勝つ前提!さすが!」
「すっげぇー!・・・姉ちゃん何でわかんの?!」
「3年培ったマネージャー繋がりの情報収集力と分析力よっ!ホホホ!」
「スゲー!かっけえ!」
「やーん翔ちゃんありがとーいい子いい子!」

い、言い訳が苦し過ぎる。情報収集力とかありませんよスイマセン・・・でもこれぐらいしか思いつかなかったのだ。こういう、内緒の繋がりよって事にしておいたら誰も突っ込んでこないだろうし!
それに実際、他校のマネージャーと仲良くなる機会って多いんだよね。大体作業場所一緒だから譲り合って使ったりするし。

まぁ、それを差し置いても

「大丈夫だよ、皆なら。」

ね、先生?

「日向さんの言う通り。皆強くなりました。勿論油断はいけませんし、全力を出さなければいけません。」

「今の君達なら必ず通過できます!!いつも通りやりましょう!!」

「「っしゃああ!!」」





そして、その日の帰り道。うん、よし、今でしょ!


いやお前空気と時期読めよって感じだけど、やっぱり今日言おう。これ、私、多分自分が思ってるより怒ってるわー。開き直った女は強いんだぞ!思い知らせてやる!大体さ、大地くんらしく無い!まぁそれだけ余裕が無い状態だったのかも知れないけどさ!それでもらしく無い!いつもどーんと構えてくれる大地くんどこいった!いや今の方が年相応ですがね!!
・・・どっちだよ私!さっきから責めてはいやでも〜とか思っちゃってるぅぅ!ふぬー!いい!もーいい!女は度胸!




帰り道、いつものように大地くんと最後尾を歩く。歩くスピードを落とし、前との距離をいつもより少しあける。大地くんはいつも私の歩くペースに合わせてくれる。くそぅ優しいな!好きだ!



「・・・大地くん。」
「ん?」
「私ね、世界一虫が嫌いなんだ。特に、ひっくり返したら腹筋割れてるやつ!」
「ふはっ腹筋って」
「カブト虫とかも大嫌いで、見るのも嫌なんだ。でもね、こないだ肩に虫がボトって落ちて来てさ、とにかく必死で誰か探したんだ。

・・・探して、人影が見えたからその人に取って貰おうと思って・・・必死だった。誰かわかんなかった。何の話かわかる?」
「・・・え」
「取って欲しくて飛びついたらさ、・・・黒尾くんだった。」
「っ!」




どうか、届け。





「大地くんは、忘れてって言ったけど、私は、忘れたくないよ・・・。

っだけど、忘れてって言うなら、今度は私の言葉を覚えてて。」

ぎゅっと拳を握り、しっかり・・・真っ直ぐ大地くんの目を見る。
大地くんは、驚いたように目を見開いている。

緊張して、手が、声が震える。

「わ、私、私ね、好きな人がいるの。」
「!!」

「この春高県予選が終わったら、大地くんに、話したい事があるの。」

だからどうか、どうか・・・


「だから、それまで、誰かのものに、ならないで、欲しくて・・・」

もう、こんなの告白してると同じじゃないか。恥ずかし!!めちゃくちゃ恥ずかしい!!
視線がウロウロとしてどこを見ていいかわからないし、語尾が小さい声過ぎた。ちゃんと、聞こえただろうか・・・。そっと大地くんに視線をやると、さっきと全く同じ顔で固まってた。

む、無反応は辛い・・・!!


「へっ返事は?!」
「(コクコクコク)」
「・・・待っててくれるって事でいい?」
「(コクコク)」

「・・・へへ、良かったぁ・・・、約束だよ、じゃあまた明日ね!!」


そのまま走り出す。

良かった、良かった!!
きっと伝わったよね。誤解、解けてるよね。

・・・ごめんこんな時期に!だけど、ちょっとは動揺しやがれって事で!へへへっ!

さぁ、明日は試合だー!!




















「だ、大地大丈夫・・・?ひなちゃんスゲー勢いで走ってったけど。」
「なんつー顔してんだよ真っ赤だし」
「は〜〜〜・・・もうやだ・・・俺情けねー・・・」
「ど、どうした?!」

ビチン!!

「えぇ?!なんで自分にビンタ?!しかも両手で!!」
「っし!!気合い入れんぞ俺!!はー・・・
〜〜・・・つか可愛過ぎだろ・・・」


「・・・うん、帰んべ旭。」
「えぇっ」
「アレはほっといて大丈夫なやつ。大地〜遅くなる前に帰れよー」
「おー・・・」




前へ 次へ


 
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -