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次の日、学校が終わるとすぐに坂ノ下へ。
ガララッ
「コーチ!」
「あ?なんだよお前か」
「翔陽は!どう練習したらいいですか?」
「あー・・・そーだなーそれなんだよなぁ・・・。」
「影山くんのトスって何か出来ませんか?こう、上手いこと翔陽が見て打てるように!!」
「何かってお前簡単に言うけどよ・・・」
今更だけど『止まるトス』って単語以外で話すの難しい〜・・・!!
ガララッ
「いらっしゃーって日向か。」
「コーチ。俺はどう練習すればいいですか」
「ぶはっ!・・・ったくよォ〜お前らは姉弟揃って・・・」
「えっ?」
「・・・翔ちゃん」
こそっと棚の影から姿をあらわす。笑顔笑顔。
「!姉ちゃん・・・?なんで・・・」
心底びっくりしたように目を見開く。
「お前と全く同じ事言ったんだよ、日向はどう練習すりゃいいんだってな。ったくお前らちょっと待っとけ、もうすぐ店番終わるから」
「はっハイ!」
お店の外で待ってる時、小さい声で「姉ちゃん」
と聞こえたので振り向くと、俯いた翔陽。
「昨日、あの、ごめんなさいっ!!」
がばりと頭を下げる。
「・・・翔陽」
「俺っ自分の事ばっかで!いつも姉ちゃんは俺の味方だったのにあんな事言って・・・俺、その、本当にごめんなさい・・・」
あぁ、良かった。・・・よかったぁ・・・
やっぱり翔陽は、真っ直ぐだなぁ。
「大丈夫だよ、わかってたから。」
「っ、え・・・」
「八つ当たりって事も、言っちゃったって翔が後悔した事も。・・・いいんだよ、お姉ちゃんだもん。辛い時には八つ当たりしてもいいよ。」
「っでも、」
「八つ当たりして、後悔したでしょ?もうしないでおこうって後悔して、こうして謝ってくれた。だからいいんだよ。」
「・・・姉ちゃん・・・」
ふふ、全く、泣き虫なのは昔から変わらないんだから。
「あっでもね、もし翔陽に彼女が出来たら、その子にはそんな事しちゃダメだよ!優しくしてあげなきゃね!」
悪戯っぽく笑いながら言うと、顔を真っ赤にして「かっかのっ!!!」と焦ってる。
「あはははっ」
「も〜〜〜・・・へへへっ」
うん、大丈夫。良かった、仲直りだ。
良かった。だって姉弟だもん。でもきっと前の経験があるからこうやって笑ってられるんだ。
少しは、強くなれたかな。
「・・・お前ら姉弟で見つめ合って笑ってんなよ気持ち悪ィ・・・」
「・・・翔ちゃん、これが焼きもちってやつよ。」
「ほーっ!成る程!!」
「違ぇよ!!オラさっさと乗れっ!」
そのまま車に揺られる事数分。
着いたのは、やっぱりこの場所だ。うわぁこの方に会えるの1年振りくらいかな?!うわー楽しみ!!
「・・・ウチのじいさ「烏養監督〜〜!!」」
ダッシュで抱き付く!
「うおお離せコラチビ!」
「お久しぶりですー!!生きてて良かったー!!」
「縁起でも無ぇ事言うんじゃねえ!」
「えっじいさんって・・・烏養監督?!」
「あぁ?!誰だこのチビ」
「弟でーす!翔ちゃんご挨拶!」
「ヒッ!日向翔陽です!お願いシアーース!!!」
「何をだ」
「あはははっ」
何で翔ちゃんファイティングポーズ!うける!
「つーかお前の家族やっぱり全員チビじゃねえか!」
「放っといて下さい!」
まぁ、その後は流れ通りというか。事情を説明したコーチが見事に投げられて。翔陽が空中で、自分で戦いたいと訴える。そして、テンポの話。
「ーー片方じゃだめだ。
ちょっと日向ここで練習してろっ!!」
「待って私も帰ります!!」
「えっ姉ちゃん帰んの?!」
「うん!監督〜!会えて良かった!また!翔陽のことお願いします!根性だけはありますのでビシバシ鍛えて下さいね!」
「早くしろっ!!」
「はーい」
ばいばい、と手を振り、車に乗り込む。思い切り練習したいだろうし、私が見守るのはここまででいい。頑張れ!!
「コーチ、烏養監督に会わせて頂いてありがとうございました。ほんと、お元気そうで良かった〜」
「エラい仲良しだったな・・・」
「なんかおじいちゃんみたいで!」
「ってそれよりお前コレで澤村に電話して影山の番号聞け!」
と後部座席にぽいっと携帯を投げられる。
・・・
・・・え?!私が?!
「こっちは運転してんだ!さっさとしろ!」
「はっハイぃ!」
まさかの展開!コーチの携帯から恐る恐る澤村を呼び出す。
『ハイ!お疲れ様です!』
ぎゃあ出た!も〜この電話の声ヤバいんですってばぁぁぁ!!
「お、お疲れー・・・」
『・・・えっさち?!えっコーチの携帯・・・だよな?』
「うん、そうです。あのね、今ちょっとコーチと一緒に居るんだけどね、影山の携帯番号教えて貰っていい?」
『え、なんでコーチと・・・あ、影山の番号?』
「うん、ちょっと事情がありまして。翔陽の事なんだけどね、」
「ぅオイさっさとしろ!!」
「ぎゃあコーチ怖い!前見て前!!ごめん後で話すから影山の番号を!!」
『あ、あぁ、待ってな、』
「はーありがとう大地くん!」
「オイ次影山にかけろ!今居る場所聞け!」
「はい!じゃあごめんね大地くん!本当ありがと!!」
とまぁ無事大地くんとの会話を終わらせ、影山に掛けようかという所で到着したので、そのまま電話を渡して車を降り、コーチとはさよならする。帰り道、大地くんに電話する。
『・・・はい』
「あっ大地くんさっきはごめんね!」
と、翔陽の為に烏養監督の所へ行った事を説明する。
「ーーって事だったんだ。」
『・・・はぁ、成る程なぁ。烏養監督、元気そうだな』
「もうそれはそれはめっちゃ元気だった!」
『ははっそうか、なら安心だな。・・・さちは今どこ?1人か?』
「うん坂ノ下の近く。帰るとこだよ」
『あー・・・今から、会えるか?』
「あ、え、う、うん、大丈夫」
何だなんだ?!何か用事でもあるのか?!
そんな訳で再び坂ノ下へ戻って、こっそり外で待つ。こそっと覗いたら、もう影山は帰った後だったみたいで、店内には誰も居なかった。
何だろう何か用事かなぁ。うーん・・・うん、思いつかない!はっ!もしかして前に言った事は無かった事にという・・・え、ここでフラれんのは嫌だ!ふ、振られるにしてもせめてもう少しは好きでいたいというか何ていうか!!う、うわぁどうし「待たせて悪い!」
「ぎゃあ!!」
び、びっくりしたぁぁあ!!!
「だ、大地くん、びっくりした・・・!!」
「わ、悪い悪い。」
大地くんは制服のままで、鞄は置いてきたのか財布と携帯だけポケットに入れて来たみたいな感じで。待たせたお詫びにアイス奢ってくれるというのでお腹が減ってた私は遠慮なく。図太い。もうやだやったぁと言って大喜びしてしまった。何歳だよ・・・。
アイスを買って、2人で歩く。
「わーい!いただきまーす!」
「おー・・・」
「?どうかした?あ、っていうか何か用事あった?」
「あーいや、用事あったんだけど、無くなったっていうか。あっ座るか?」
公園のベンチを指差す大地くん。うん、日陰になってて涼しそうだ。もう夕方で、公園内には人影がチラホラくらい。
夕焼けが綺麗だ。
いいよーと言ってベンチに並んで座る。大地くんが買ってくれたのはmから始まる牛の鳴き声が商品名のバニラアイス。美味いよねー。
早く食べなきゃ溶ける!と頑張って食べているんですけどね。何ていうか、視線が、気になる・・・。
「ん、ごちそうさま!ありがとう生き返った!」
「ふはっ生き返ったって何、くくっ」
・・・笑われた!いやそうじゃなくてですね・・・。
・・・さぁっと風が吹く。気持ちいいなー・・・
ってまったりしてる場合じゃないわ!
「えーと、何か用事、あった?」
「あー・・・今日、学校で元気無かっただろ。気になってたんだ」
え、あっ・・・翔ちゃんとの事・・・
「でも、今見たらなんか大丈夫そうだからさ。・・・良かった。」
ふわりと笑ってくれる大地くん。
まさか、
「そ、れで・・・来て、くれたの?」
「そうだよ。」
「まー出来れば俺が何とかしてやりたかったし、理由も気になるけど、お前が元気になったなら良かった。」
何で・・・
この人は、何て優しいんだろう。
「あの、あのね、昨日の夜ね、・・・」
気付いたら勝手に、昨日の翔ちゃんとの話を説明していた。聞いて欲しいと思った。話したいと、思った。
「・・・で、今日、謝ってくれたんだ。だから、元気になれた。」
「そうか・・・」
「でも、でもね、」
・・・伝えたいと思った。
「翔ちゃんに言われて、私、信じてたけど、不安で、怖くて・・・。その時、・・・大地くんの声が、聞きたくなったんだよ。」
「っ!」
「頼りたいって思ったんだ、よ・・・」
あなたが心配してくれたように、私もあなたを想ったという事を。
勇気の無い私は行動なんて出来なかったけれど。あの時、私は貴方に会いたかった。心が弱った時に、頼りたいと思ったのが貴方だったという事を。
「そっ、か・・・そうか。」
そっと大地くんを見ると、少し頬を赤くして、嬉しそうに、くすぐったそうに笑ってた。
「なら、今度何かあったら、遠慮なんかせずに、いつでも、何時でもいいから連絡しろよ。」
「・・・うん。ありがとう」
「ん。っし、そろそろ帰るか。」
「うん。」
「・・・送る。」
「ふふ、うん、ありがとう。本当に、いつもありがとう」
あぁ、やっぱり、好きだなぁ。
私の言葉で、少しは喜んでくれましたか?
喜んでくれてたら、こんなに幸せなことって無いよ。
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