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無事にプレゼントも買えて解散、という流れになった時だった。氷鷹くんに連絡先を聞かれた。え、なんで?という言葉を飲み込むと携帯を取り出し連絡先を交換する。

「じゃあ、私はこれからバイトなので。」

では、と手を上げ別れを告げると衣更くんが付いてきた。

「…?」

「今日は俺達も解散だからさ。向かう方向一緒っぽいし途中まで一緒に帰ろうぜ。」

多分衣更くん的には方向が一緒なのに別で帰るのも変だからといった理由だとは思うけどそんな気回しは必要なかったのに、と下唇を噛んだ。お互い別で帰った方が楽だろうに。

「…そうだね。」

絞り出すようにそういうと二人並んで歩いていく。会話を探しているような衣更くんがやっと口を開いた。

「そう言えばさ、凛月と仲いいんだって?」

「…仲いいかは分からないけど…。朔間先輩とはちょくちょく会ってるよ。」

「朔間先輩…。な、なんか変な感じだな。」

「ああ、先輩留年しちゃったんだってね。」

そして無言。衣更くんも何やら複雑そうな顔をしているし、なんだか可哀想になってきた。

「……あ、私頼まれたものあるんだった。バイト行く前によるところあるから じゃあね、衣更くん。」

「え、あ、おう。ええと、今日はありがとうな。」

うんと私は頷くと元の道を引き返す。そしてしばらく歩いてから後ろを振り返り衣更くんの姿が無いかを確認してからまた同じ道を辿る。ああ、何だか疲れちゃったなあ。


* * *

名字は思ったより凛月と仲がいいようだ。まあ、そうだよなあ、あの凛月がちょくちょく会う相手だもんなあ。あいつからしたら仲のいい友達の感覚なのだろう。なんだか複雑な気持ちになる。俺やユニットメンバーの他にも心を開く相手がいただなんて思わなかった。
名字の印象は相変わらずだった。一緒に過ごして思い出したがあいつは中学の頃からやたらと落ち着いた奴だったと思う。特定の友達がおらずいつも退屈そうに外を眺めるか教室に居ないかのどちらかだった。ただ、クラスに馴染めないタイプには見えなかった。会話はふられたら返すし最小限の協調性もあったのでクラスからは浮いてなかったとは思うが記憶には残りにくいだろう。
北斗はウマがあったっぽくて連絡先を交換してたみたいだがなんだかどっと気を使った気がする。名字がにこりとしないから機嫌が悪いのかどういう気持ちなのか全く分からなくて気を使ったのだ。恐らく、怒っては…なかったと思う。
まあ、あとで凛月にもお礼を言っとくか、と大きく伸びをした。


* * *

「おじいちゃん、遅くなってごめんね。」

「おかえり。今日はそんなに混んでないからゆっくり準備しておいで。」

休日なのにそんなに混んでないって大丈夫なのか?と頷くと奥に引っ込む。早速買ったばかりのヘアクリップを取り出すと鏡を見ながら留める。ゴムだとすごくあとが付いたりしてなんだかボサボサになってしまうので気になっていた。なので今日はいい買い物が出来た、と鏡の自分を見る。
携帯を弄りながら朔間先輩に連絡をする。

「( 約束通り、ピアノ聴かせてくださいね、と )」

送信してからエプロンを閉めフロアに出る。おじいちゃんがおいでと手招きをするので向かうとおにぎりをくれた。

「お腹すいただろう。厨房で食べておいで。」

「うん。」

ありがとう、と私は厨房の奥に引っ込む。おばあちゃんがいてあらあら、と笑った。

「今日は暇なのよ。」

「知ってる。おじいちゃんが言ってた。」

「おにぎり食べたらピアノ使っていいわよ。」

発表会近いんでしょう?そう言われて頷く。しかしこれで時給を貰ってるのがとても申し訳ない。食べながらそう伝えるとケラケラ笑うおばあちゃん。

「働いてもらってはいるけどあなたのママから怒られない合法的なお小遣いだもの。」

「いやでも、いいよ。家で練習してるから大丈夫。」

「そう?たまにはおばあちゃんにもピアノ聴かせてね。」

食べたら出ておいでとおばあちゃんはフロアの方へ向かっていく。
ここは楽だ。気を使うこともないし、とにかく自由にしていられる。常連が多いこの店はわたしが孫だと分かると良くしてくれるし多少笑顔がぎごちなくて許してもらえる。おにぎりを急いで詰め込むと よし、と気合を口に出した。