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あんずに何かプレゼントをしようよ。スバルのその言葉に俺たち3人は同意をした。あんずが居たから俺たちは生徒会に勝てたし、今のところその後も順調だ。いつも大変そうなあんずにプレゼント、というのはとてもいい案に思えた。

「ところで明星。プレゼントとは具体的にどうする?お前の事だ。どうせ何も考えていないんだろう。」

「え?なんで分かるのホッケ〜!エスパーじゃん!そうそう、ノープランなんだけどさ、みんなで考えようよって思って!」

はあ、と北斗がため息を付いたがすぐに腕を組んで頭を働かせている。真が調べてみるよ!とインターネットを駆使してみたがどれもなんというかあんずっぽくはなくてしっくりこない。あいつはかわいい高めのルームウェアとか喜ぶのか??

「女子の喜ぶものか…。衣更、お前には妹がいたと思うが何か案はないか?」

「え?」

うーんと考えを巡らせるもあいつに欲しいものを聞いたところで参考にはならなそうだ。とりあえず聞いてみようと言うことになり早速、連絡を取るとすぐに返事が帰ってきた。それを見て俺はげんなりする。一言 お金 と返ってきたのだ。本当に毛程も参考にならなかった。そこであんずが来てしまったのでまた今度と慌てて散るが散ったところで今からレッスンだ。余計不自然で4人で冷や汗をかく。あんずはさほど気にしていない様子でせっせとレッスンの準備を始める。働きアリめ。


レッスン後まだ校内に残っているらしい凛月を回収しにKnightsのスタジオに足を踏み入れる。鍵は空いていて床に転がる不自然な膨らみを叩いた。

「おい、凛月。起きろよ。」

「あ、ま〜くん。ふふふ、お迎えご苦労。」

「いい加減俺なしでも帰れるようになれよなあ…?」

口ではそういいつつも世話を焼くのは嫌いではない。特にこの手が掛かる幼馴染に関しては多少鬱陶しく思うことはあるが長年の付き合いだ。もう気にならなくなってきたし生活の一部になってしまっている。ああ、俺の青春はもったいない。
凛月を背中に乗せて引っ張りあげるとすんなり引き上がる。こいつはちゃんと飯を食ってるのか…?幽霊みたいな幼馴染がぐったりと俺に凭れるのを感じると凛月に渡された鍵でスタジオを閉める。

「そう言えばさあ、今日トリスタのみんなであんずに何かプレゼントしようって事になったんだけどさあ。」

「へえ〜。なにあげるの?」

「それが全く決まらなくて。妹に聞いたらお金だとよ。あいつ大丈夫か?」

あはは、妹ちゃんらしいね。よく知らないけどとケラケラ凛月は笑うと何かを思い出したように あ、と言葉を漏らした。

「なに?」

「なまえに聞いてあげようか。」

「なまえ…??」

知らない名前に首を傾ける。なまえなんて女子、凛月の周りにいたっけか…??

「え〜?ま〜くんの同級生でしょう?」

「俺の?同級生…?」

凛月の周りではなく俺の周りにいたようだが全く思い出せない。これだけ思い出せないとなると多分接点はほとんどなかった、はずだ。

「ピアノが上手な子でよく合唱祭とかでピアノ弾いてたじゃん。まあ、あんまり目立つタイプじゃなかったからま〜くんは覚えてないのかもね。」

うーん。何にせよ貴重な意見を聞けるならこの際誰でもいい。"みんなに聞いてからお願いするわ" と返しておくことにしよう。しかし本当に思い出せない。
自分の家に帰ると卒業アルバムを引っ張り出す。なまえしか聞いていなかったので名字が分からない。幸いクラス数も多くない中学だったのと忘れてた記憶が蘇って来たのとで俺は あ!と声を上げた。

「( 思い出した! )」

話したことは無いがいつも隅の方で大人しくしてたイメージしかない。もしかしたら話したことはあるのかもしれないが事務的な話だけだろう。凛月の言っていた通り合唱祭でピアノを弾いてた。俺はクラス委員をしていたから打ち合わせで会話はしている、と思う。しかし、凛月はなんで名字と接点があるんだ…?当時は学年も違ったはずだし意味がわからない。ピアノか…?凛月もピアノが上手だしもしかしたらそれ関連なのかもしれない。


* * *


名字なまえ。同級生。中三の1年は同じクラスだった。雰囲気というか、あまり表情がないのはあんずと似ているかもしれない。
みんなに聞いたところ名字に意見を仰ごうということになったので次の日、凛月に名字と連絡が取れるようにしてほしいと頼んだ。

「ところで凛月、何で名字と接点あるんだ?学年違っただろ?」

「あれ?ま〜くんに言ってなかったっけ。昼間は体調があんまり良くないからさあ。学校に行けなかった日は夕方にプリントとか受け取りに行ってたんだよねえ。中学になるとま〜くんも忙しそうにしてたし頼むのも悪いかなあって思ってたし。で、なまえはいつも最終下校ギリギリまで音楽室でピアノ弾いてたから時間が合えばちょっかい出しに行ってたの。」

「へえ、知らなかった。」

「なまえのピアノは上手だよ。まあ、機械的ではあるけど。」

あんまり感情の起伏とかの表現は得意じゃないみたい。と凛月が続けるのをぼんやり聞いていた。なるほど、なんだかマンガみたいな出会いなんだな。名字はアルバムを見る限り綺麗なタイプの子だ。凛月と並んだら凄そうだなあと頭の悪そうな事を思う。

「まあ、とりあえず。なまえに聞いておいてあげるね。」

ゆったりとした動作で携帯を取り出すと恐らく名字に何かを送ってからまた寝る体勢に入った。
コアラか、と心の中でツッコミを入れると俺も席に戻る。俺の妹のように お金 だなんて言われなければいいけど。