「あれ〜、けっこう作ったはずなんだけどなあ…。」
ほぼ空になった鍋を見つめて3日分の食料になるはずだったカレーを想った。真緒くんはお土産に持ってきてくれたケーキまでぺろりと平らげたがまだ余裕そうでテレビを見ている。凛月くんはお腹いっぱいだとソファーに寝転んで寛いでいる、が!私は仕事があるのだ。早急にお帰りいただかなくては。
「あの〜、わたし明日仕事だからそろそろ…!」
「そうだなあ、俺も仕事だしそろそろお暇しようかな。ほら、凛月、帰るぞ。」
真緒くんが腰を上げても凛月くんは起き上がる気配がない。真緒くんがあやすようにもう1度呼びかけた。
「りっちゃ〜ん…?」
「やだやだ、俺はまだいる。」
いやいやと首を振ってツーンとそっぽを向いた凛月くんに愕然とした。大変だ。ここで真緒くんだけが帰ったとしよう。凛月くんは誰が連れてってくれる!?慌てた私は凛月くんの腕を引っ張った。
「ほらー!真緒くん帰るって!凛月くんも帰って〜!」
自称吸血鬼は夜寝ないんじゃないの!?頑張れ!と手厚い応援をするも凛月くんは起きてくれない。寝たふりまで始めたものだから真緒くんに助けを求めた。真緒くんは後頭部を掻くと凛月くんのそばに寄った。
「ほら、おんぶしてやるから。」
「………すや、」
迷った、今絶対迷った!と私は真緒くんを全力で応援する。真緒くんは数秒闘って諦めた。
「え、諦め早くない…?ほら真緒くんは凛月くんに背中寄せてよ。私が頑張って背中に乗せるからさ。」
言われた通りにソファーに背中をくっつけた真緒くん。私は仰向けに寝たふりしてる凛月くんの腕をひっぱるがびくともしない。カブの話を思い浮かべながら引っ張るが反対に私が凛月くんに引っ張られた。ソファーに雪崩込むように突っ込むとなんと凛月くんの上にのってしまったではないか。慌てて退こうと暴れるも凛月くんが馬鹿力で私を抑え込むものだから更にパニックになる。
「ま、真緒くん!」
「え?あ!凛月!」
私が半泣きになってる事に気がついた真緒くんが剥がしにかかるがはやり一筋縄ではいかない。凛月くんはこんな細い体にどんだけの力を秘めているんだろう。
「わかった!わかったから!凛月くんごめんまだ居ていいよ!」
先に折れたのは私だった。本当に困った幼馴染みである。凛月くんはじとりと私に視線を寄越すと
「最初からそう言えばいいのに。」
と呟いた。私が悪いみたいな言い方にカチンときた私は凛月くんの鼻を摘む。
「あのね、私は全く悪くないから!」
さっさと凛月くんの上から退いた私は真緒くんにお願いをした。
「まだ帰らないで。」
「え、ああ、別に明日早いわけじゃないならいいけどさ。」
すると後ろから蹴りが入る。凛月くんだ。ひどい…!
「俺はダメなのにま〜くんはいいって訳…?」
「1人で私の家を出るより2人で出た方が万が一すっぱ抜かれても言い訳つくでしょう…。」
スクープされてしまうというアイドルとしては傷が付くことをどうしても避けたい私と何も考えてない凛月くん。そういうボンヤリさんな所は変わってないんだなあ、と蹴られた所をさすっていると凛月くんは起き上がって私の手に自分の手を重ねた。
「ごめんねえ、名前。傷物にしちゃった。でも大丈夫だよ。責任とって俺がもらってあげるからね。」
「おばかか!」
チョップを入れると大げさに痛がる凛月くんを見てサッと真緒くんの後ろに隠れた。
「私の知ってる凛月くんは私にこんなこと言わない…!」
「凛月、あんまり虐めてやるなよ…。」
「ふふん、俺達を置いてった罰だよ。甘受するように。」
結局2人が帰ったのは日付が変わって暫くしてからだった。