玄関を開けてもう一度閉めた。多分真緒くんだった、とおもう。後ろから凛月くんがノロノロとやってくる。
「あ、ま〜くん来た?」
「か、勝手に呼んだの…!?」
間違いなく凛月くんが勝手に招いたのであろう。外で真緒くんの困った声が聞こえて観念した私は扉を開けた。久々に会う真緒くんは背が高くなってて男の人、だった。体もしっかり鍛えているんだろう、随分がっちりしてしまったものだ。
「久々、名前。」
「お久しぶりです…。」
凛月くんはそんなに変わった印象は無かったが真緒くんは何となくこう、幼馴染みの贔屓目無しにかっこよくなったと思う。思わず敬語になるときょとんとした真緒くんは笑った。
「どうしたー?会わないうちに俺のこと忘れちまったか?」
「わ、忘れてない…!」
思わず声が上ずってしまい慌てて咳払いする。真緒くんは私にお土産、とケーキを渡すと私を見て目尻を下げた。優しい顔になった真緒くんは「会いたかったよ。」と私に言ってくれたもんだから恥ずかしくなって俯いてしまう。
「あのさあ、」
凛月くんが空気を壊すように口を開いて私の腰周りに腕を回した。
「最初に名前を見つけたのは俺だからね、ま〜くん。」
「…?お、おう。」
私も言葉の意味が分からず肩に顎を乗せる相手に視線だけ動かす。
「ま〜くん、今晩はカレーだよ〜、」
凛月くんは私の手を引いてリビングに向かう。え、2人とも食べていくの?3日は食事に困らないと思ったんだけどな。
「お、いいな。お邪魔します。」
礼儀正しく後から続く真緒くんを見て私が変に意地を張って行ってきた逃亡生活は終わりを迎えたのだと理解をした。
実際みんなが嫌いになった訳じゃなくて私が1人でいじけて逃げたというのが事の始まりなわけで、正直昔馴染みの2人に会えたのは嬉しく思っている、と思う。
「名前、今何してんの?」
カレーの皿を私から受け取ると真緒くんが口を開いた。私は少しだけ躊躇う。いまの仕事が少しだけ後ろめたかった。何でかは分からないけど。
「女の子のアイドルをプロデュースしてる。」
「聞いてよ、ま〜くん。名前ったらおしゃれなカフェに男と2人で居たんだよ。信じられないよね。」
「お、やるなあ。」
凛月くんが変なことを言い始めるのですぱんと頭を叩いた。誤解を招くことを!
「仕事の人っていってるでしょ…!」
「そうだっけ?」
真緒くんはさほど気にせず食事を始めるもんだから私が変に弁解しなくてもいいかな、と凛月くんの前にカレーを置く。
「わあい、ありがとね、名前。」
「はいはい、食べたら帰ってね〜!」
「どんなアイドルプロデュースしてるんだ?」
真緒くんがそう言えばと顔を上げた。
「この間音楽番組で真緒くんも凛月くんも一緒に出てたよ。」
「え?どのグループ?」
ほらほら、とグループ名を口にすれば ああ!とスプーンをこちらに向けて来る真緒くん。凛月くんは はて、と言った表情を浮かべている。
「へえ、あの子達最近見るよな。全力体育会系のグループで見応えあるから覚えてる。」
「ほ、ほんと…!ありがとう。きっとみんな喜ぶよ。」
自分の担当アイドルが褒めて貰えるのは純粋に嬉しい。自分がちゃんと貢献できてるか分かんないけど何となく認められた気がして誇らしい気持ちになる。余程嬉しい顔をしていたのか凛月くんに足元踏まれるとだらしない顔だと怒られる。
「俺は全く覚えてないから今度調べてあげる。感謝してね、名前。」
「え、うん。ありがとう。」
凛月くんはにっこり笑うと 「おいしいねえ、」とお皿を空にして私にお代わりを要求したのであった。