名前の部屋がガランとしているのを見た時違和感はあった。が、名前は嘘を付いてなさそうだ。名前は嘘をつく時瞬きが多くなる。じ、と表情を観察したがそういう変化は無かった。だから安心した。きっと名前が言ってることは本当だ、と。
ま〜くんがこっそりツテで名前のプロデュースしてるアイドルのライブチケットを入手したのは結構前の事だ。本気であのアイドルの為に動いてるのを俺は知ってた。別に名前がステージ上に上がるわけではないけどステージ構成、アイドルの衣装、そして楽曲、全部名前が作った愛しいもの。それを俺は見たかった。
当日ま〜くんに迎えに来てもらって会場に入る。関係者席が少しいっぱいになってしまったみたいで俺たちは別の場所に案内された。関係者ってそんなにいるもんなのかな、と不思議に思いながら案内に従う。

「楽しみだな。」

ま〜くんはそう言って会場全体を見渡した。

「俺も楽しみだよ、ま〜くん。」

「そーいえばさあ、名前の奴、やっぱり俺達に曲書いてくんねぇんだよなぁ。」

少しだけ不満げに唇を尖らせたま〜くんに俺はもたれ掛かる。

「何だか引越しの用意もしてたみたいだし忙しかっただけかもよ?もしかしたら書いてくれるかもしれないんだから後でもう1回お願いしてみたら?ね?」

ま〜くんはきょとんと俺を見て少しだけ焦った顔をした。おでこを抑えるとため息を一つ。

「……?どうしたの?」

「いや、別に…。」

ま〜くんの様子が少し引っかかったがライブが始まってしまった。追求する暇も無く俺は名前の作ったきらきらした世界に引き込まれた。


ライブが終わって名前を驚かせに行ったつもりが名前の両親にこっちが驚かされた。どんどん俺の知らない話になっていって遂に頭を鈍器で殴られたんじゃないかと思うくらいの衝撃が俺を襲った。名前が海外に行ってしまう。ま〜くんは反応的に知ってたみたいだ。知らないのは俺だけ。俯いたままの名前は俺に何も語ってくれない。

「もういい。」

やっとこっちを見た名前の顔は苦しそうなどうしていいか分からないと言った顔をしていた。ねえ、俺になんで教えてくれなかったの?これ以上は冷静なれないと判断した俺は足早にその場を去ることにした。だめだ、考えないと、どうしたらいいのか。

「凛月!」

「……ま〜くんは知ってたの?」

「いや俺もあんずから聞いてたんだよ。」

困ったようにま〜くんは頭をかいた。

「名前は多分だけど誰にも言うつもりが無かったんだと思う。」

「……俺が名前の事好きだって知ってるのになんで教えてくれなかったんだろ。やっぱり迷惑だったかな。」

心が折れそうだった。あんなに好きだって伝えたし俺なりに大事にしてきたつもりだった。どうして。

「あのさあ、俺はこういうの得意じゃないから分かんないけど…。気持ちを知ってるから話せなかったんじゃね?」

「え?」

「ほら、お前の気持ちが本気って分かったから簡単に言い出せなかったんだろ。俺だって急に海外に数年行くってなったら皆になんて言っていいか分かんねぇし。」

ま〜くんの言葉は確かに、と俺を頷かせた。

「名前が戻ってくるかは分かんないけど、戻ってくるのを待つか、どうするかは凛月の気持ち次第、じゃねえかな。」

ちょっと待ってろよ、とま〜くんはその場を離れた。暫く突っ立って待っているとすぐま〜くんは戻ってきた。

「明日の8時。名前はその時間に親御さん達と合流して向こうに行く。どうするかはりっちゃんが決めな。」

俺は拳を握りしめた。どうしたいかなんて決まってる。