私がひどい顔をしていたのであろう。佐々井さんがいち早く落ち着きを取り戻した。
「あー、ええと。僕は彼女の仕事仲間。君達はKnightsの朔間くんと鳴上くんだよね。」
「…….ふぅん?」
凛月くんはジロジロと佐々井さんを眺めた後、私に笑いかけた。
「俺が怒ってるの、わかる?」
一見怒ってなんかいないように見える笑顔。表情は分かりにくいが立派に怒ってる凛月くんだった。困り果てた私は佐々井さんに視線を向けるとがっつりと両頬を潰されるように掴まれ視線は凛月くんに固定される。
「他の男見てる場合じゃないんじゃない?」
「………は、はい。」
そりゃ、確かに不愉快であろう。腐れ縁で仲良くしてやってた女が連絡も無く姿を眩ませたのだ。申し訳ないとは思うけどこんなに怒らなくてもいいのに…!凛月君の紅い瞳が弧を描く。間抜けな私は綺麗だな、とぼんやり考えた。
「名前」
「は、はい。」
「心配したんだよ。俺も、ま〜くんも。分かってる?」
心配。そんなふうに思ってもらえてると思わずに数回瞬きすれば大きくため息をつかれた。
「あのねえ、名前。失踪だよ、し っ そ う !分かってるよね?」
「……、う、うん。」
「携帯だして。」
「…………今日、持ってない。」
これは嘘だ。本当はポケットに入ってる。
「名前は昔から嘘が下手くそ。出して。早く。」
凛月くんは本当に怒ってた。こうなった凛月くんから逃げられた事も勝てた事もない私はおずおずとポケットから携帯を出す。
「いい子だねえ。」
ロックもかかってない私の携帯は凛月くんに何か操作を加えられ私の元へ戻ってくる。凛月くんは私の頬から手を離すと自分の携帯に恐らく私の携帯番号を入れ満足そうに笑う。
「久しぶりの再会なんだし、一緒にご飯食べても良いよね。」
「……し、仕事の話してる…」
せめて精一杯の抵抗を見せるが佐々井さんが私を宥める。
「まあまあ、なんか分かんないけど取り敢えず久々なんだろ?仕事の話はまたにしよう。また様子見に行くからさ。」
「ほら、こう言われてる事だし、いいよね。」
助けを求めるように鳴上くんに目を向けるも ごめんね だなんて口パクで返されてしまえば諦める他なかった。凛月くんは私の方に回り込むと詰めろと言わんばかりに押してくる。
「いたい!痛いから凛月くん…!」
「ぼんやりしてるからでしょう?ほんと名前はおっとりさんなんだから」
語尾に音符でも飛んでるんじゃないかと思うぐらい上機嫌になった凛月くんは携帯を再び取り出すと私に顔を寄せる。かしゃと機械音が写真を撮られた事を知らせてくるが私はもう何も言う元気もなくてそれを赦した。
「ま〜くんにも教えてあげようね。」
「あらあら、うちの王様や泉ちゃん、司ちゃんにも教えてあげましょうよ。」
いそいそと鳴上くんは私の前に座ると凛月くんに声をかけた。凛月くんはめんどくさいと声をあげつつ携帯を操作しているから多分鳴上くんの言うことを聞いているのだろう。佐々井さんも席に着けば私たちの様子を見て
「なるほどそっか、みんな夢ノ咲だね。」
と合点がいったようで腕を組んだ。私は小さく頷くと視線を落とす。こんなすごい人たちと同窓だと思われるのが恥ずかしかった。居心地の悪さから爪を弄っていると私が頼んだサンドイッチが運ばれてくる。鳴上くんがついでにと自分たちの注文をしている間凛月くんは私にちょっかいかけてきていたのでやめて、と手を払う。
「昔みたいに俺を甘やかしてもっと構ってよ。」
凛月くんの責めるような声色を聞こえないふりをした。