少しだけうる、としてしまった私を揶揄って大笑いした後みんなはステージに向かって行った。どきどきするのは皆だろうが私も緊張する。舞台袖からじ、と見つめる。

「ああ、そういえば関係者席も人が居ますよ。」

「関係者…?事務所の人?」

「それも居るみたいなんですけど、事務所の更に関係者…?」

なにそれ…と、とりあえず私はみんなに集中することにした。前半戦は無事に乗り切った。私の作った曲で、衣装で輝くみんなを見るのは本当に幸せだったし、胸の内からぐっ、とくる何かもあった。
後半は衣装チェンジがある。この間私が凝りに凝ったパニエのふわふわ衣装。少しだけ着替えるのが面倒なそれの衣装転換を手伝いながら前半戦のみんながいかにアイドルだったかを一生懸命伝えて後半頑張れ!と背中を押す。私と舞台袖にいた佐々井さんに順番にハグをしていくと次々にきらびやかなステージへと戻っていく。ライトの下の彼女たちはこっちがドキドキするぐらいにアイドルだ。


アンコールまでの時間はあっという間だった。大歓声に見送られて帰ってくる皆に今度はハグを返していく。よかった、よかったよ!と声をかけて一息。大成功、だ。目立ったミスは裏方も無く全部綺麗に終わらせられた。思わず頬を緩ませながらみんなの待つ楽屋の方へ向かっている途中で声をかけられた。

「名前ちゃん〜!」

どこかで聞いたことのあるその声にまさか、と一瞬固まる。恐る恐る振り返ると、

「お、お母さん…?」

そう、母が居た。後ろには父も居る。おかしいな2人は日本に居ないはず…。夢か…?と目を擦るがやはり能天気そうな顔をした母が居て混乱をする。

「名前ちゃんの育てたアイドルちゃんたちすごかった〜!ママびっくりしちゃった!しっかりお仕事してるのねぇ。」

「曲も良かったぞ、名前。パパは感動した…!これから一緒に曲を作るのが楽しみだ!」

両腕をとられるとサイドから一気に感想を伝えられる。分かった分かった!とふたりを押しのけて距離を取る。

「いやなんでいるの…?」

「それがねぇ、こっちの音楽番組にパパが指揮者で出ることになって。名前ちゃんのアイドルもコンサートあるって言ってたし、せっかくだから見に行こうか!って知り合いを通じてチケットをとってもらったのよ。」

うふふと口元に手を当てて笑う母に曖昧に相槌を打つ。関係者の関係者。なるほど。この人たちか…。

「おーい、名前ー、」

後ろから再び声をかけられた。振り返れば何故か真緒くんと凛月くん。

「こっそりチケット取ってたんだよ。いや、凄かったぜ!」

「お疲れ様〜、」

2人はそう言いながら近づいてきたが私の両親を見てストップした。

「……真緒ちゃんに…、凛月ちゃん…?」

母がふたりを指さして驚いたように目を見開く。

「あれ!?こっち戻ってきてたんすか…!?」

「やだ、パパ。あんなに小さかったふたりが…、こんなに素敵に成長してる…!」

「私達も歳をとるわけだなあ…。」

わいわいと始まった空間を見て疲労の溜まってる私はこめかみを抑える。
とりあえず私は楽屋に行きたくて後でね、と言おうとしたが母が舞い上がってしまっていた。

「え、2人もアイドルしてるのよね?素敵ねえ、おばさんサインもらっちゃおうかしらっ。そうだ、2人は恋をしてるの?アイドルといえど、音楽に携わるなら恋愛はしてないとだめよ!ねっ!」

真緒くんは私たちの事情を知っているのか気まづそうに私たちを交互に見る。凛月くんは欠伸をした。

「名前ちゃんもね、全然そういう話聞かなくて…。せっかく皆にときめきとか音楽を届けているのに勿体無いわよねぇ。」

「はあ、」

真緒くんが苦笑いで対応をする。

「もうすぐ名前もこっちに来るから沢山恋をさせて私たちのように素敵なパートナーを見つけてもらおうと思ってるんだ。」

父が母の肩を抱く。私はしまった、と感じた。やばい、この流れはやばい気がする。

「名前ちゃんがもし結婚なんてしたら2人も来てあげてね。ふふふ、楽しみだわ。」

「………どういうこと…?」

凛月くんの冷たい声に思わず下を向く。なんとも言えない空気に顔を上げられなかった。ああ、もう、どうしよう。お母さんの、馬鹿。