私は凛月くんから全てを聞いたあの日から少しづつ新しい曲を書き始めていた。Trickstarの曲だ。以前の私なら恐らく何にも浮かばなくて作曲所では無かったであろうグループの曲を私は今、作れている。真実を知れば単純で、なんてことのない事だった。ただ、私はTrickstar側に曲を作っていることを伝えていない。渡せるかどうかもわからなかったし、1度は断っている。少しだけ渡しにくい、という気持ちもあったからだ。
そして明後日には本番がある。今のあの子達でできる最高のパフォーマンスを届ける日。成功は絶対にするって信じてる。裏方のフォローも何度も何度もシュミレーションしているしきっと大丈夫だろう。チケットも完売している。順調だ。
私が居なくなってからの事だが佐々井さんやメンバーと話し合って海外からのサポート、プロデュースになることになった。けして簡単ではないだろう。しかしありがたい事にメンバーが私のプロデュースでないと、舞台に立てないとまで言ってくれたのだ。アイドルからそんなことを言われるなんて光栄だし、みんなの青春をまだ私に預けてくれるという事が苦しいぐらいに嬉しかった。

「( …だからこそ、半端な覚悟では居られない。)」

私をプロデューサーとして成長させてくれたのは間違いなくあの子達だ。だから私はそれを返していかなければならない。
がらん、とした私の部屋は少しだけ寒かった。


本番当日と同時にTrickstarへの曲も出来上がった。あんまり寝てない割にはコンデションは抜群で、頭もすっきり冴えていた。

「頑張ろう。」

急いで会場に向かっているとメールが届いた。凛月くんだった。実は私達はあの日から会っていない。私も忙しかったし、凛月くんはドラマの撮影があったからだ。なんだろう、とメールを開いて口元が緩む。平仮名で " がんばれ "と一言。朝も早いし本当は眠いはずなのに私に向けられた優しさが素直に嬉しかった。ああ、私の周りには幸せをくれる人が大勢居るんだ。恵まれている。
会場前で佐々井さんと合流すると急いで支度を始めた。物販の待機列もそこそこ出来上がっているようで安心する。メンバーが会場入りすると空気が変わったのがわかる。この子達が今日の主役だ。私達裏方はこの子達を今日世界一輝かせるために尽力をする。失敗は絶対に出来ない。この子達が輝けば輝く程に今日ここに来てくれたファンは喜んでくれる…!

「名前さん。」

着替えをしながらリーダーの子が私を呼んだ。

「私達、大きいライブは無理だって思ってたし、物販待機列が出来るほどファンが出来るとも思っても無かったです。今、此処に入れるのは名前さんのお陰なんです。ファンのみんなは勿論ですけど私達は今日、名前さんを世界で一番の幸せな気持ちにしますから、だから私達から目を離さないでくださいね。」

他のメンバーも大きく頷いた。私は驚いて持っていたファイルを落としてしまう。ばさばさと大きな音を立てて落ちたそれを拾おうとしたが視界が滲んでいく。
ああ、私がやってきたことは実を結んでいるのかもしれない。私はやっぱりこの子達を、アイドルを輝かせていたい。

「ありがとう、」

思わず震えてしまった声に私は笑ってしまった。