随分長く時が流れた気がした。が、今の出来事はほんの数分の事だった。ああ、やってしまったなあ、とぼんやり考える私。

「……もう会わない方がいい?」

私から離れた凛月くんが一番最初に私に放った言葉はこれだ。いつの話を蒸し返してるんだ!と私は軽く凛月くんを叩く。意地悪な顔をしている凛月くんはそれはそれは楽しそうだった。

「…びっくりするからいきなりこういうのやめてよ…。」

「じゃあ事前にキスするよー、って言えばいいの?」

「するよー、じゃなくてしてもいい?じゃないの?そしたらだめでーす、って言えるでしょ。」

顔に熱が集中しているようで熱い。冷や汗もかいている。こんなはずでは無かったし、拒もうと思えば拒めた凛月くんからのキスを私は受け入れてしまった。わかってる。流されたのだ。いつも居てくれた兄のような幼馴染は恋人同士がするような事を私に求める。
ああそう、と言ったあと凛月くんは何でもないように言った。

「付き合おうよ、名前。」

「……だ、だめ…!」

ええ?今の流れで?と言いたげな顔をする凛月くん。私は急いで若干の距離を取る。凛月くんの近くにはとてもじゃないが居られなかったし正直聞こえてしまうんじゃないかとおもうぐらいには心臓が煩かったのだ。幼馴染、凛月くんは、ただの幼馴染…!

「なんで?俺から見たら名前は俺のこと好きになってきてると思うんだけどなあ。」

「わ、わたしは、凛月くんの隣にいていいような人間じゃないから…!性格もいい方じゃないし、可愛くもないし、ええとあと、」

大きな掌が私の口を覆った。

「そういうのは要らないんだけど、まだ何か言うことがある?お得意のアイドルとプロデューサー?」

「それ、」

口を覆われているため若干もごもごと返事を返すと大きなため息をつかれる。

「はあ、も〜。名前って頑固だよねぇ。」

呆れたような凛月くんの目に私は視線を逸らす。いや。これ、好きのドキドキなのかも分からないし、やっぱり踏ん切りはつかない。それでも私は少しづつ気持ちが動いてしまっていることに気がついてはいた。いつもは一番最初に出る私と凛月くんの立場よりも彼に相応しいのか、幼馴染だから、とそちらが優先的思考になってきてしまっていることがその証拠である。私がどんな態度をとっても根気よく傍にいようとしてくれた凛月くん、真っ直ぐに気持ちを伝えてくれる凛月くん、そういう姿にだんだんと絆されてしまったのだろう。我ながら単純な女である。
しかし私はもうすぐ日本を年単位で去る。何もないまま、……まあ、キスはしてしまったけど、これ以上の好きを増やさないままここを去りたい。その間に凛月くんも私への気持ちを忘れて別の人と幸せになって欲しい。
不満そうな凛月くんの隣に誰かがいることを想像してきり、と胸がいたんだ。