ああ、からかわれてたのかな、なんてテレビを見ながら思う。
今日は最後の打ち合わせをしてレッスンをして明日は通しのリハがあってそれでええとなんだっけあともう少しの本番に向けてみんなの士気を高めて…、ええと…。

「Knightsの朔間凛月熱愛!お相手は現在人気沸騰中の若手女優!」

大きく並ぶ文字に少しだけ混乱した。凛月くんサイドのコメントはまだみたいだが女優さんサイドは否定はしていない。プライベイトは本人に任せております。そっか。
あんなに私は振り回されて結局凛月くんは私の事、なあんとも思ってなかったんだなあ。なんのつもりのあれそれだったか分かんないけど、一々真に受けてバカみたい。テレビを消すと急いで明日の支度をする。そして綺麗に片付いてきている部屋を見た。あと数日に迫った本番。それが終わったらすぐに両親のところに行く。紹介したい人っていうのは多分、多分だけど縁談かな、と考える。父と母の結婚は早かった。それで、まだいい人も居ない私にヤキモキしているようで定期的に恋人の有無をせっついてくる。ああいうのも うんざりだったから紹介された人と恋をして見るのもありかもしれない、と凛月くんの熱愛報道をぼんやり思い出しながら考える。

携帯が鳴った。誰かと見れば真緒くんでなんだろう、と出る。

「凛月のニュース、見たか?」

「え?うん。相手の人可愛かったね。」

「あー、あれさあ…、」

真緒くんが何か言おうとしたのを私はタイミング的に遮ってしまった。

「凛月くんも真緒くんもいい歳だから恋人ぐらいいてもいいと思うんだ。ええと、おしあわせに…?」

なんで真緒くんに言ってるんだ…?と首を傾げながら慌てて電話を切る。なんだかすっきりしたようなもやもやしたような複雑な心境だった。


次の日、私は本番で使用する会場に居た。メンバーも気合十分の表情で立ち位置に居る。こんなに大きな会場は初めてだし緊張してるかな、と心配したが表情を見て要らない心配だったなと確信する。ああ、立派になったなあ。最初出会った時は皆どこか変に諦めてて、小さなハコでくだを巻いてた。今は見に来てくれる人も増えて気持ちも何もかも立派なアイドルだ。

「じゃあ頭からね。」

4人の頭が大きく縦に動いた。じんわりと目元が熱くなった気がした。
全部終わって最後の調整が終わったのは深夜に回ってからだった。未成年のメンバーはもう既に帰していて大人達が頭をくっつけてあーだこーだと意見交換していたのだがどんどん変更点が出てきてしまい私の頭はパンク寸前だった。正直に言おう、疲れた。
佐々井さんに送ってもらい部屋に向かう途中で腕を掴まれる。

「名前、」

「凛月くん。」

久々に見る凛月くんはとても疲れた顔をしててどうしたのかと尋ねる。

「なんか面倒なことに巻き込まれたの。流石の俺もクタクタで名前に甘やかしてもらいに来たよ。」

「はあ…?彼女のところに行けばいいじゃない…。喧嘩でもしてんの…?」

凛月くんの目が大きく開くと掴まれてた腕がぎり、と悲鳴をあげる。

「あんなの信じたの…?」

「いや、女優さん否定してなかったし清楚系の綺麗な子だなあと思って。凛月くんとお似合いだよ。」

傷ついた目に私はたじろいだ。

「本当に何にも伝わってないの…?あんなに俺、気持ちを伝えたよね。……ああ、そういえばま〜くんにお幸せにだなんて言ったらしいね。」

「ご、ごめん…?」

はあ、とため息をつかれるとぎゅうと抱きしめられる。外だということに気がついた私は脱出を試みるがびくともしない。ああ、男の子だ!と実感して困惑した。どうやら女優さんとの報道は真実では無いようだ。

「その火消しで散々飛び回ってたから疲れた。暫く名前にも会えてないし…。というか、どうせ俺のこと避けてたんでしょ。」

そうなんだ、と呟いてどこかホッとしてる自分を戒める。ホッとしてる場合じゃない!ここは外だ!

「凛月くん、ここは外です。軽率な事はやめて。」

「外じゃなかったらいいの?」

「ダメです。」

あはは、と凛月くんは笑う。確かにどこか疲れた様子の凛月くんに昔馴染みの情が出る。お茶ぐらい、と部屋に入れてあげることにした。私は本当にこういうところが甘い。靴を脱いでいると後ろから凛月くんが覆いかぶさってきた。

「ちょっと!」

「すきだよ、名前。」

背中に凛月くんの頭が押し付けられるのを感じて私は大人しくなる。相当参ってるようだ。とんとん、と私に回る手をあやす様に叩く。
より強まる腕の力はまるで私にすがり付いてるみたいだった。