もう数日で私のプロデュースしてるアイドルのライブがある。ステージ構成も、衣装もチケットのはけ具合も順調で、私は楽しみにしている。メンバーもレッスンに気合い充分で本当に調子よく進んでる。
凛月くんが家に泊まったあの日から暫く経ったが1度も会ってない。居留守を使ったり別のスタジオに拠点を移したりと私が尽力したのだ。凛月くんの気持ちに応えられる気もしないし今は私にとって大事な時期だった。

「佐々井さん、このライブ終わったら長めのお休みが欲しいと思っててちょっと顔を出せなくなると思うんです。もし必要なら代わりのプロデューサー立ててから休むんですけど…。」

「え?構わないけど、旅行?」

「海外に居る両親のところに行こうと思ってるんです。紹介したい人もいるとか言ってて私も会ってみたいと思うので。」

驚いたように目を丸くした佐々井さん。え、とメンバーに持っていこうとしていたペットボトルのお茶を落とす。私はそれを拾い上げた。その際に視界の端に誰かいたような気がしたので辺りを見回すが誰も居なかった。疲れてるのかなと佐々井さんと控え室に向かった。


両親からの連絡は再来年、父の率いる楽団の大規模なコンサートがあるらしく、オリジナルを一曲、それと既存の曲のアレンジをかいてみないかとの内容だった。私の作ったアイドルソングをコンマスさんが偉く気に入ったらしい。伴奏や音の選び方が好みだったという事だと思うが、オーケストラ曲なんて未知の世界のことで実際曲作りにどれぐらいかかるかは分からない。再来年という事だから猶予は2年だ。プロデュースに関しては海外からでもやろうと思えばやれるのかもしれないが2足の草鞋を私が履きこなせるかはまた別の話だ。代役、やっぱり立てて行こうかな。痛む頭を抑えながら知り合いをピックアップしていく。この間から頭の痛いことばかりだ。
そういえばあんずちゃんにTrickstarの件返事してないなあ…。断ろう。大事なライブもあるし、その先には海外の話もある。お断りの返信すると一息ついた。

「わ、」

着信だ。登録のない番号だが仕事用にかかってきてるってことは仕事関係者だ。恐る恐る電話に出て後悔した。

「もしもし、名前ちゃん?」

あんずちゃんだった。一瞬言葉に詰まる。大きく息を吸うと心を落ち着かせた。

「はい。そうです。ええと、あんずちゃんだよね?」

「うん。Trickstarの件のメール見て…。どうしても名前ちゃんの曲が欲しくて電話してしまったの。お願い、一曲でもいいの。この間、名前ちゃんのプロデュースしたアイドルを見て感動した。皆で見てたんだけどこんな曲でパフォーマンスしたいってみんなが言ってて、私も名前ちゃんの曲で輝く4人を見たいんだ。」

こういう所が苦手なんだ。私は彼女のこういう所が眩しすぎて苦手だった。こういうあんずちゃんだから皆の女神になれた。知らずのうちに力の入る拳を解くと目を伏せた。

「本当にごめん。私、海外に居る両親のところに行くの。目の前のライブが終わったらすぐの予定だから、曲を書けない。あんずちゃん、ごめんね。」

私の意地悪にあんずちゃんが息を飲んだ。こういう私だから皆に置いていかれたんだ。