ハッと目が覚めた時私はまだ凛月くんの腕の中に居た。凛月くんも今度は本当に寝ているようで腕の力は緩んでいて私は簡単に抜け出せた。
寝ている凛月くんを眺める。綺麗な黒髪に陶器みたいな白い肌、それに加えて容姿も整っている。そんな幼馴染が私のどこに惹かれたんだろうか。全く分からない。

「はあ…。」

痛む頭を抑えながら携帯片手にリビングに向かう。時計は七時を指していた。携帯を見ると2件不在着信が入っていた。一つは瀬名先輩。ああ、なんて説明しよう。一線は越えませんでした?まあある意味越えてはいるんだけど。自虐気味に笑えばメールを打つ。謝罪と凛月くんの本日の予定だ。メールはすぐに帰ってきて凛月くんは本日午後からのお仕事のようだ。私は朝から仕事だがもう少しゆっくり寝かせておくか、と次の着信を見る。両親からだ。…?なんだろう。向こうから連絡だなんて珍しい。一応要件をきくメールは入れておこう。


朝食を用意している時に凛月くんはのそのそ起きてきた。

「おはよう。ほら、朝ごはん。食べれる?」

「まだいい。」

「はいはい。じゃあ私はご飯食べたら仕事行かないといけないからね。」

一緒に出るんだよ〜、と声かけると気の抜けた返事が帰ってきた。昨日の会話はもしかしたら夢だったのかもしれない。それぐらいの緩い空気だった。

「昨日の事なんだけどさあ。」

「ごほ、」

ちらりと私を見た凛月くんは少しだけ嬉しそうに頬を緩めた。

「あれから考えてみて思ったんだけど名前がまだ俺をちゃんと見てくれなくても俺の好きは消えないわけだから今更ぐだぐだ言ってもしょうがないのかなあって。俺の努力次第では名前が俺のこと好きになってくれる可能性があるわけだし。」

ないよ!とは言えずに曖昧に笑う。

「凛月くんはさあ、私のどこが好きなの?正直凛月くんの周りにはすごく綺麗な人がいてきっと選り取りみどりなのになんで私なのかいまいちわかんない。」

何となく聞いた事だった。すると凛月くんはぎょ、とすると頬を軽く染めた。珍しい表情の変化に私の口からご飯が零れる。何その顔初めて見た。

「……多分だけど初めて会った時…。ま〜くんと名前がプリント持ってきてくれた時。人形みたいって怖がらないで笑いかけてくれたのは名前が初めてだったから…。」

「……え、そんなこと…?」

「他にもあるんだけどそれは言いたくない。俺の秘密。」

「………、」

意地悪な顔をした凛月くんにピンとくる。これは仕返しだ。凛月くんの"秘密"は泣いた理由を頑なに話さない私への仕返し。腑に落ちないまま私はウインナーを咀嚼した。


仕事に向かう途中で両親からメールの返信が帰ってくる。内容を見て一瞬言葉を失った。ううん、これはどうしたものか、と再び痛む頭に思わず手を当てた。