「はい、どーぞ。」

凛月くんの前にオムライスを置くと嬉しそうに笑った。にこにこしながらケチャップを私に押し返すととんでもないことを言い始める。

「これで凛月くん好きって書いてよ。」

「…….当店はそういったサービスを行っておりません。」

「けち。」

仕方ないなあと凛月くんはケチャップを持ち直すと私の方に手を伸ばす。え、何、と見れば私のオムライスに大きくハートを書いてしまった。古典的なそれに私は言葉を詰まらす。ええ、なにこれ。

「凛月くん、あのねえ…。」

「何?ハート書いただけなんだけど。」

ふふん、と鼻で笑いたげな凛月くんに私は仕返し、とケチャップを奪い取った。こういうイラスト的なものは得意ではない、が、やるしかない!慎重に頑張ったつもり…だったが、仕上がったものを見て凛月くんは首を傾げた。

「なにこれ。」

「……お月様…。」

じ、とそれを見ていた凛月くんは暫くしてから吹き出した。

「ふふ、…下手すぎでしょ。俺の名前に因んで書いてくれたみたいだけどさあ、……ふ、わかんなかったよ。」

「う、うるさいなあ…!黙って食べて!そんで帰って!」

未だ笑いが治まらない凛月くんとほんの少しだけ怒っている私。空気は悪くないけどとても恥ずかしいし、悔しい。やるんじゃなかった、と後悔をする。
一頻り笑ってからスプーンを口に運び始めたのをぼんやりと見つめる。凛月くんは食べ方が綺麗だ。顔が整ってるからそう見えるのかなと思ったがどうやらそうではないらしい。真緒くんと並んで食べていてもやっぱり綺麗なのだ。真緒くんは勢いがあり、たまに口にソースやらなんやらが付いてることがある。対して凛月くんは静かだ。お箸の使い方が綺麗。

「なに?」

「いや、昔から思ってたんだけど、凛月くんは食べ方綺麗だなあって。」

「……そう?」

ピンと来てなさそうな、よく分かってなさそうな不思議な表情された後、にこりと笑顔を浮かべる凛月くん。嫌な予感に一瞬怯む。

「…へえ、名前はそんな細かい所まで俺を見てたんだねぇ?」

「……あのね〜、散々一緒にご飯食べてれば嫌でも目に付くの!」

スプーンを咥えたまま喋ると行儀が悪いと注意される。たしかに…、と反省した私はスプーンを離し、最近の翻弄され具合に額を抑えた。も〜!調子が狂う…!本当だったら凛月くんや真緒くんに関わってるはずじゃないのに…!

「ふふふ、俺のことで困ってる名前はいつもより可愛いよ。」

頭痛がした。