「で、ご飯何食べよっか。」

「あ、結局一緒に食べるのね。」

凛月くんは 今更?みたいな顔で私を見る。とりあえず手を離してもらうことにした。真緒くんの事件の二の舞は避けたい。どうしようかと悩んでいると あ、と凛月くんが声を漏らす。

「オムライス食べたい。名前が作ったやつ。そんな気分になってきたなあ。」

「え、家に行かなきゃダメじゃん。やだ。瀬名先輩に怒られるから行くなら誰か誘ってよ。」

「え〜、もうみんな帰っちゃってるか別の仕事行っちゃってるんだけど…。ま〜くんは仕事っていってたし…。外でも良いけど名前の恐れてる俺の熱愛報道?そんなのが何処かの雑誌に抜かれちゃう確率は高くなるよねぇ。」

その言葉にぐうの音も出ない私とにんまりする凛月くん。どちらが勝ったかはもう分かりきっていた。

「はい、決定だね。」

してやったり顔の凛月くんが恨めしい。


家に先に帰ってもらおうとしたが言うことをきかない凛月くんはスーパーまで着いてきてしまった。こういう所を撮られちゃうの!とお説教をしたが

「だから俺は名前となら良いんだってば。」

と押し切られてしまった。そっちが良くてもこっちが良くないという言葉は凛月くんの鼻歌でかき消されてしまう。

「凛月くん、私がカゴ持つよ。」

「んーん、俺が持つからいい。それにほらこうしてるとなんだか夫婦みたいだし?」

「だーかーらー…」

私の文句は凛月くんの人差し指に止められる。はいはい、と言いたげな顔をされると私も目で訴える他ない。

「ほら、家に何がないわけ?」

「鶏肉とグリンピースと人参…。」

凛月くんはぱぱっとカゴにそれらを入れるとレジに向かった。途中でぴたりと足を止めるとあれ、と指を指す。

「あれ、名前よく飲んでたよね。」

「え?」

ぶどう味の炭酸。と凛月くんがそれをカゴに入れる。私も少し考えてから炭酸水をカゴに追加した。

「凛月くんはこれだっけ?学生の時に目覚めの1杯?とかで飲んでたよね。」

「……ふふふ、覚えてくれてるの?嬉しい。」

「いや、覚えてるでしょ。凛月くんはわりとインパクトある方だから自覚した方がいいよ。」

どうやら支払いは凛月くんがしてくれるみたいで余計なもの入れてしまったなあ、と後悔をする。ただ機嫌は良さそうなのでいいか、と私と凛月くんは店を出た。自然な流れで凛月くんは荷物を持つと反対の手で私の手を握ろうとする。

「凛月くん。」

咎めるように名前を呼ぶときょとんとした後に我に返ったような顔をした。

「ごめん、素で間違えちゃった。」

「ええ……?真緒くんとか他にもこんなことしてるんじゃないよね?だったら、やめた方がいいよ。」

「はあ?するわけないでしょ。名前はおバカさんなの?」

大きなため息をついた凛月くんは私の家の方へ進んでいく。随分手馴れたものだ。陽の光を浴びてもあんまり辛くは無さそうな凛月くんの足取りは軽い。少しづつ体質が改善されてきているのかもしれない。
私の家に着くと当たり前のようにくつろぎ始める様子を見て私は本当にこの人に告白をされたのか分からなくなる。緊張感が全くない。正直あれが無かったことになるなら有難いっちゃ有難いのだけど…。

「名前さあ、彼氏とかいた事あるの?」

「え、何その急な質問。まあ、そりゃあいた事はあるけど。」

こっちに出てきた時に1人だけ。私には勿体無いぐらいいい人だった。優しすぎて眩しすぎて精神的に甘えすぎてしまいそうになってこれではだめだと別れを切り出した。

「凛月くんがそんな話なんて珍しいね。」

「まあねえ。」

なんだそりゃ、と鶏肉を炒め始める。凛月くんはどんどんと質問を投げかけてきた。どれぐらいつづいたの、デートは基本的にどこに行ってたの、彼氏だった人は何人いるの?、やらなんやらうんざりしてきた私は もういいでしょ、と切り上げる。凛月くんは関わりを持たれたり、干渉してきたりを嫌うはずなのに今日はどうしたのかと視線を移した。バッチリ目が合ってしまい咄嗟に逸らす。

「敵がどれぐらい居たのか知りたいの。俺の可愛い可愛い名前を傷物にして、こうして美味しいご飯を振る舞われた奴が何人いたのかなって。」

「凛月くんのじゃないけどね。」

呆れた私は構うのをやめてフライパンを揺らす。美味しそうな匂いがオムライスの成功を知らせてくれた気がした。