私はこの状況をどう打破すれば良いのか分からなかった。何故か凛月くんはまた怒ってるし思わせぶりな台詞も何もかもが自分に向けられてるものではなくてテレビ画面を見ている感覚にすり変わってしまう。

「なんか言ったらどうなの。」

「あ、ええと。そんなこと言われても…。」

困る、という言葉を飲み込むと視線を逸らした。万が一にも考えたことのないお話すぎて混乱する。

「だって、そんな話1度だってしたことないじゃん。もしそんな可能性があったとしたらなんて考えた事無かった。凛月くんは確かにいつも一緒にいてくれてたけど、ずっと妹みたいに可愛がってくれてるものだと思ってたし…。」

「俺だって最初はそう思ってたよ。」

最初は、ということは今は違うのだろうか。逸らされる事のない凛月くんの視線に私は殺されてしまいそうだった。

「名前の事が好きみたい。気がついたのは最近、ううん、今だけど、でも考えてみたら昔から好きだったんだと思う。ま〜くんとの話を聞いた時、俺はま〜くんに取られたくないって思った。多分それが俺の気持ちの正解。」

かあ、と熱が顔に集まるのが分かった。やめて、やめてよ。なんでそんなこと言うの。なんで踏み込んでくるの。やめてよ。

「……、そんな、なんで、私なんか…」

冷や汗が出る。プロデューサーはアイドルと恋をしてはいけない。夢ノ咲で染み込んだその思想は今日の私にしっかり染み付いている。

「凛月くん、落ち着こう。違うよ、多分それは正解なんかじゃない。何か錯覚してるんだよ、凛月くん。」

「……そうやって、俺から、俺の気持ちから逃げないでよ。」

ぱ、と腕を取られると引き寄せられる。あの日の、凛月くんが私にキスをしたあの日を思い出した。咄嗟に体を硬直させた私を優しく抱き寄せる。凛月くんの匂いがした。

「すき、」

私に回った腕にぎゅう、と力がこもった。だらりとした私の腕は凛月くんには回せない。

「だめだよ、凛月くん。こんなのダメだ。」

「なんで?この間俺の恋を後押ししてくれたのは名前だよ。」

確かに、そうだけど、でも、私じゃダメなんだよ凛月くん。

「私が相手だって分かってたなら絶対に後押ししなかった。」

「変なの。好きになったのはプロデューサーの名前じゃない、幼馴染の名前だよ。どうせアイドルとプロデューサーだからとか狭い観点で物事を考えてるんだろうけどさぁ、そんな肩書きの前に俺たちは幼馴染だからね、名前。」

でも、まあ、と凛月くんは体を離した。

「永くやってきた幼馴染って関係が崩れちゃうって考えると確かに混乱はするのかもね。スグに返事が欲しいわけじゃないからゆっくりアプローチして行くことにするよ。いつか俺を好きになってね、名前。」

今日は帰る、と凛月くんは私の髪に唇を落とした。反射的に身を引くと面白そうに眺められる。

「な、なに。」

「そういう小動物みたいな反応されるともうちょっと虐めたくなっちゃうのはなんでだろう。」

ふふふ、と笑う凛月くんはどこかスッキリしていて少しだけ憎らしかった。