真緒くんに連れてこられたのはちょっといい所の炭火焼きのお店だった。ええ、アイドルって羽振り良すぎない…!?と足が止まる。

「ま、真緒くん私やっぱり帰る。今日あんまり持ち合わせないし…。」

「え?いや、俺が出すつもりだったから遠慮すんなよ。」

ケロリと真緒くんはそんなこと言うけど はい、そうですか!と言える元気がないくらいには戸惑っていた。私の中で少しだけTrickstarは鬼門だ。真緒くんだけなら大丈夫。ただ、Trickstarの衣更真緒はダメ。なんとも曖昧な線引きである。

「ほら、早く。」

北斗が待ってる、と私の腕を引くと中に連れられる。上品な店内に私は更に縮こまった。

「お待たせ、北斗。」

「ああ、衣更。やっと来たか。…?連れか?」

私の事を連絡してなかったみたいで氷鷹くんはキョトンとしている。私は真緒くんの後ろで軽く手を挙げて挨拶をした。

「こんにちは、氷鷹くん。」

「名前か!」

嬉しそうに目を輝かせた氷鷹くんは私に入るように言った。真緒くんの隣に座ると氷鷹くんはメニューを渡してくれた。

「ここの親子丼は上手いぞ、名前。オススメだ。」

「ふうん、そうなの?じゃあそれにしようかなあ。」

じゃあ俺も、と真緒くんが言うものだから三人で仲良く親子丼を食べるハメになった。それが何だか少しだけ間抜けで私は苦笑いを浮かべる。

「そうだ、衣更から聞いてお前のプロデュースしてるアイドルをチェックしてみた。」

「! え、わざわざ…?ありがとう…。」

「いいアイドルだな。一生懸命さが伝わる。あとは作曲の腕がまた上がったな。」

氷鷹くんは優しい顔をして感想をくれる。氷鷹くんこそ随分表情のバリエーションがふえたんじゃないかと思ったが言わないでおく。私はもう彼らのプロデューサーではない。

「そうだ。真がこの間言ってた曲の事なんだけど正式に頼めないか?あれからスバルがずっと "名前の曲を歌いたい" って煩いんだよ。多分、あんずを通して話は来ると思うんだけどさ。」

「ごほ、」

隣から聞こえた台詞に噎せる。

「そうだな。明星も理由の一つだが、正直俺もお前の曲でパフォーマンスをしたい。」

「……ええと私は今、女の子専門だから…。」

「え?それって規約とかで決まってんの?」

「あ、ううん。そうじゃないけど…。前みたいにかっこいい?って言うのかな、みんなのイメージの曲を作れないと思うんだよね…。」

誤魔化しながら視線を逸らす。皆が私の曲でパフォーマンス…?考えられないし、想像しただけで足が震える。何年もTrickstarのために曲なんて書いてない。

「まあ、考えておいてくれよな。」

何も考えてなさそうな真緒くんの声に辛うじて頷く。その後運ばれてきた絶対美味しかったであろう親子丼の味は勿体無いことに分からなかった。
他愛のない話をした後店を出る。氷鷹くんは歩きだったらしく、またねと声をかけて別れる。家に送ってもらって仕事をしたり家のことをしたりしているうちに携帯が鳴った。仕事のことかな、と電話をとると真緒くんの声が飛び込んできた。

「不味いことになったっぽいんだけどさあ…。」

不吉な出だしに私はただ眉を顰めた。