凛月くん達が出ていったあと入れ替わるように佐々井さんが入ってきた。
「今のKnightsの2人だよね?朔間くんがすごい笑顔で俺に挨拶してきたからびっくりしたよ。」
「はあ…。そうですか…。」
まさか、と佐々井さんの顔に好奇の表情が浮かんだので私は慌てる気にもなれずに首を振った。
「いやいやいや、だから私たちの間にはそういうの一切ないですって。小さい頃から知ってるんで今更異性として見れないと言うか。」
「へえ…、まあ、名字さんはそうでも向こうが同じとは限らないんじゃない?」
「ううん…、凛月くんも真緒くんも同じだと思うんですけどねえ。」
それより、とほぼ完成の衣装を佐々井さんにお披露目する。どうですか…?と自信なさげの自分の声に内心笑ってしまう。佐々井さんは生地を触りながらじっと見つめる。
「いいよ!とてもいい!今回は曲もこういう元気可愛い感じだしね。うんうん、フィッティングが楽しみだなあ。」
満足そうな佐々井さんにホッとすると散らかした布たちを片付ける作業に入る。暫くするとメンバー達も集まってきて衣装に目を輝かせる。
「名前さんの作る衣装本当に可愛くて好き!女心を分かってる!」
「一応みんなと同じ女だからね…。」
きゃっきゃと自分の担当カラーの衣装の前で楽しそうにしてるみんなを見て安心する。まだこの子達の青春は死んでないようだ、と。
嫌な考えを頭を振って払うと佐々井さんを部屋から出す。一人一人に着せて動いてもらったりこだわりのふんわりスカートになっているか調整するためだ。思った通り漫画みたいにフワフワするスカートに私は大満足でメンバーと一緒にはしゃいでしまう。
「私たち名前さんと一緒なら本当にどこへでも行けそう。」
そう言って笑うのを見て鼻の奥がつんとする。ああ、そっかあ、それならよかったなあ、と私は苦笑いすると佐々井さんを呼んだ。衣装を着た状態を見てもらって了承を貰うと今日は舞台構成を作ろうと輪になる。練習着に着替えたみんなの顔は真剣になっていてプロだなあ、と感動した。
「まずは登場なんだけど、」
私の話をうんうん、と聞くメンバーは愛おしかった。
打ち合わせを終わらせてレッスンを少しだけしてその日は解散になった。今日は早く帰ろう、と軽くスタジオを掃除して鍵を閉める。今日は佐々井さんはメンバーを送っている為、いない。バス通りを歩いていると美味しそうな喫茶店を見つけてしまう。1人で入っても大丈夫そうな雰囲気だ、と私が1歩踏み出すと腕をがっしり掴まれる。驚いて後ろを見ると真緒くんだった。
「よお、奇遇だな!」
サングラスを少しずらしてこちらを見る様は完璧なアイドルだった。
「……真緒くん。お疲れ様、仕事?」
「んや、今日はオフ。名前は?」
「今終わってあの喫茶店に入ろうとしてたところなの。」
へえ、と呟いた真緒くんに嫌な予感がして早々に切り上げようとじゃあね、と呟くがそれは叶わなかった。
「今から北斗とメシ行くんだよ。そこに車停めてるからさ、名前も来いよ。仕事、終わったんだろ?」
軽く腕を取られたまま私は道端に止めてあった車に乗せられる。幼馴染が車を運転できるようになっている事に驚きながら後部座席で小さくなる。
離れてる期間が長いとみんなはどんどん知らない人になってしまうんだなあ。
「なんで後ろ…?」
「な、なんとなく。」
なんだそりゃ、と真緒くんは笑うと車を走らせた。
「大きくなったんだねえ。」
「は?」
ミラー越しに目を合わせると真緒くんの不思議そうな目が優しく弧を描いた。
そういう優しい顔は昔から変わらないんだね。