目元が眩しい、し何だか体中が痛い。起き上がろうとするが何かに押さえつけられているようで中々起き上がれない。

「……?」

横を見て悲鳴をあげそうになった。凛月くんが居た。混乱しながら私の上にあった凛月くんの腕をゆっくり退かすと距離を取る。あれ?いつの間に私は床で寝たのだろうか?きょろきょろと辺りを見渡すと私が借りてるスタジオで場所はあっている。時計を見ると朝の7時。息を整えるとぐっすり床で寝こけてる彼を揺すった。

「ちょっと、凛月くん。起きてってば。」

「うぅん、安眠妨害、やめ、て…。」

「こんな所で安眠しないで!ほら、今日仕事じゃないの?知らないけど!」

暫く揺すっていると、けたましく機械音が鳴った。ぎょっとしつつ音の出処を探すとそれは凛月くんのポケットからでどうやら携帯が鳴っているらしい。携帯を引っ張りだし、画面を見て凍りついた。着信は瀬名先輩だ。さぁ、と血の気が引く。不本意とはいえアイドルと一晩を過ごした。一旦鳴りやんだが再びなり始める携帯。電話の向こう側のイライラが伝わってくるようだ。

「………もしもし」

「……アンタ誰。」

「ええと、名字です。」

しん、となる電話口に心臓がバクバクする。ああ、怖い!なんにも無かったけど怖い!

「……どうせなんも無かったと思うけどさあ。」

「は、はい。」

「どこ?」

場所を伝えると大きなため息つかれる。私が悪いわけではないと思うが何となく居心地が悪く服の端をいじった。

「迎えいくからそこで待機しておいて。あと15分ぐらいで着くから。」

先輩の声が死刑宣告みたいに聞こえた。


「クマくん!!!」

大きな声で瀬名先輩が飛び込んでくるが凛月くんは相変わらず熟睡で私は床でよくこれだけ寝れるなあ、と引いていた。

「もうほんっとさあ〜っ!」

「ご、ごめんなさい。バスまた逃してしまって…。私が帰れなかったのと、あと凛月くん廊下に残して帰れなくて…。」

先輩は私をちらっと見る。呆れたといわんばかりの視線に私は萎縮してしまう。

「なんで俺に連絡しないわけぇ?連絡先、また消した?」

「まさか!お、思い浮かばなかっただけです…。」

ふぅん、と信用してない声で相槌打たれると私はもう顔があげられなくなった。

「ああもう、セっちゃんも名前もどっちもうるさぁい。俺が寝れないでしょう?」

間の抜けた声に私はずる、とコケそうになる。コントか?と声の主を見ると鬱陶しそうにこちらを見ている。

「しんっじらんない!今日は朝から収録でしょ!昨日と同じ服だし…。ほら、早く行くよ。」

「はいはい、セっちゃんは煩いなあ。」

ふぁ、と欠伸をひとつした凛月くんはゆっくり扉に向かう。思い出したように戻ってくると私の頭にぽんと掌を乗せた。そのまま私の耳元に顔を寄せるとよしよし、と頭を撫で寝起きの舌の足らない声で私に囁く。

「あんまりがんばりすぎないように。」

眠そうで優しい凛月くんの声は今の私には薬だった。謎の安心感に私は泣きそうになる。ほら、と瀬名先輩に首根っこ掴まれると凛月くんはそのまま部屋から出ていった。妙な静けさの中で私は頑張ろう!と居住まいを正した。