「ただいまあ。」

「あ、くまくん。ちょっとさっきの、どういうつもりなわけぇ!?」

本当に信じらんない!とぷりぷり怒るセっちゃんに適当に返事をすると練習着に着替える。ス〜ちゃんは俺に詰め寄るとわあわあと騒ぎ始めた。

「名前お姉様がいらっしゃるとお聞きしました!私もお姉様にお会いしたいです、どこに行けばよろしいでしょうか、凛月先輩…!」

可愛い可愛い末っ子騎士は目をキラキラさせて名前の所在を聞く。学生の頃この末っ子は随分名前に可愛がってもらってたし正直、俺より甘やかされていた。あれはおもしろくなかった。昔を思い出しながら絶対に会わせるものかと意地悪をしてやる事に決定。

「え〜…?名前、なんか忙しそうだったし邪魔しちゃうんじゃない?ス〜ちゃんがそれでも良いなら教えてあげるけど。」

我ながら意地の悪い言い方である。ス〜ちゃんは言葉に詰まるも 一目会うだけです!と譲らない。ナっちゃんが腰に手を当てて近づいてきた。

「意地悪しないの、凛月ちゃん!教えてあげればいいじゃない!」

「うっさ……。はいはい、第2スタジオの横の会議室みたいなとこだよ。」

「ありがとうございます!いってきます!」

バタバタと走り去る音を聞きながら内心は面白くなかった。名前はス〜ちゃんの事可愛がってたし、会えるのは本当に嬉しいだろう。もしかしたら成長したス〜ちゃんの年下の男の魅力とやらにやられてしまうかもしれない。それで名前とス〜ちゃんが、いい仲なんかになっちゃったりして結婚…、なんて事になったら、と思うともやもやが止まらない。

先ほどの名前との会話を思い出す。好きな人が居るか居ないかと問われれば本当に分からない。ただ名前を前にしてうまれる嫉妬や独占欲の説明ができない。ただの幼馴染みという関係からでは無いのは分かっている。ま〜くんに対して結婚して欲しくないとか彼女作らないでなんて思った事ないし、出来たとしても俺を優先してくれるのは分かっている。でも名前は?俺を優先してくれる保証がないから居なくなるのが怖いのかな、それとも…。うーん、やっぱり俺には分からない。分からないままで名前にキスなんかしちゃったわけだけど、許してくれるとか言ってたし良いよね。

「ねえ、ナっちゃん。好きな人がいるってどんな感じ?」

「お、なんだなんだ、リッツ!そんな話をするなんて珍しいな!んー!!なんだかインスピレーションが…!!」

ずっと床で転がって曲を書いていた王様ががばりと起き上がる。

「うるさいなあ、ちょっと興味が出ただけだよ。」

「まあ、凛月ちゃんも男のコ、ですもんね。ん〜…、と 言ってもアタシもちゃんと理解してる訳じゃないのよね…。」

「例えばだけど、好きだと思う相手にさあ、ずっと一緒に居れないとか、いつか自分は結婚するからアンタも優先順位考えろみたいな事、言われたらどう?」

「やだ、名前ちゃんにそんな事言われたの?」

「うっわあ、アイツも結構酷いねぇ。」

わいわいと外野が騒ぎ始めると聞いた場所が不味ったなあと眉を顰める。ま〜くんはこういう事に疎いし、ナっちゃんぐらいにしか聞けなかったから聞いたのに、オマケが本当に邪魔。

「名前の話なんて一言も出してないでしょ。」

「出て来なくてもわかるわよ…。で、さっきの話だけど、どう?って言われても素直にはいそうですか、なんて言えないかも。出来れば好きな人の隣はアタシがいいし…。」


そうだよね、と言いかけて口を噤む。また外野が騒ぎ立てるのが目に見えたからだ。俺は勝手に納得することにする。やっぱり名前の隣は俺がいいし、誰かに名前を取られるとか絶対に考えたくない。うっかりキスなんかしちゃったり、名前の態度にやきもきしちゃうのは、きっと本能的にだ。

「( 好きなのかなあ、 )」

秘めた想いは炭酸水と一緒に飲み込んだ。