凛月くんは本当に驚いてた。確に夢ノ咲に入学をして、真緒君たちの手伝いを始めるまで2人の間にいるのは心地良かった。嘘偽りなくそう思う。私は2人に甘えてたのだ。だから構ってくれなくなったと拗ねて一方的に逃げた。そんなの2人に迷惑だし私も成長するべきだろう。

「また、そんな事言うの。」

「うん、ごめんね。でも凛月くんもいつかきっと結婚したり好きな人ができたらまた変わると思うよ。」

傷ついたような顔をした凛月くんは唇を噛み締めた。

「名前は、好きな人がいるってこと?あの佐々井とかいう男?それともセっちゃんみたいな男がタイプ?もうわかんないよ。名前が俺から離れて誰か知らない奴と結婚して子供ができてその中で幸せそうにしてるのを想像しただけで気持ちがぐちゃぐちゃになる。」

私は驚いて言葉も出なかった。幼馴染みへの依存だろうか。凛月くんにとって私達が初めての友達だというのは知っていたけど、友達という事実は私が結婚しても、子供が出来ても変わらないだろう。

「……、」

私は無言で少し離れたところに腰を下ろすと膝を抱えた。

「好きな人なんて仕事が忙しいから今は居ないけど…。凛月くんは?そういう人居ないの?」

「………、分かんない。」

分からない。つまり気になっている人がいるという事だ。なるほど、と相槌を打った。

「じゃあ尚更私の事でもやもやしてる場合じゃないと思うんだ。凛月くんは自分の気持ちに向き合う時間をとるべきだよ。アイドルだから恋愛は厳しいのかもだけど別にKnightsは恋愛禁止じゃないんでしょう?」

「……、うん。」

私をじ、と見つめたあとため息をついた凛月くんは爪を弄る。恋愛の話なんてこの人とするとは思ってなかった。いつもぼんやり寝てるし、真緒くんぐらいにしか興味がないし、今まで特に浮いた話もないだろう。

「まあさ、とりあえずね、この間の事は無かったことにしよう。その方がお互いの為じゃないかな。あとは暫くお互いのことに専念しよう!」

先ほどの "ずっと一緒にいて" には触れない事にした。凛月くんもそのうち変わるだろうし、私はやっぱりずっと一緒には居れない。それは変わらないし、暫く連絡も取るべきではない。とりあえずこの場をおさめないと、と提案をしてみた。

「…名前が許してくれるならそれでいいよ。」

「うん、じゃあこの話はおしまい!ほら、早く戻らないとね。」

私は立ち上がると凛月くんの腕をとる。凛月くんはゆったり立ち上がると私に続いた。背中を押して扉から出す。

「じゃあね。」

私の方に向き直ると少しだけ考える仕草をする凛月くんに首を傾ける。そのまま肩口を押され凛月くんの上半身が部屋に戻ってきた。え、と私が驚いているうちに大きな掌で前髪を上げられる。そのまま額に唇を押し付けられた。

「……!!」

「名前とならそういう噂立てられてもいいと思ってる。だからお説教は受けないから。」

にっこり、と悪戯っぽく笑うと またね、とひらりと手を振って去っていく。慌ててドアを閉めると地団駄を踏んだ。信じられない!せっかくこっちが距離をとろうとしてるのに!気になる人がいるって言ってたのに!
怒りが収まらないまま衣装製作に入ったがどうも上手くは行かなかった。全部凛月くんのせいだ。