瀬名先輩の車で家に着いたのが深夜。眠い、と目を擦ると出かける支度を始めた。今日は昨日の続きをしに借りっぱなしのスタジオに行かなくてはならない。作業しやすいので借りていたスタジオだったがKnightsや他のアイドルに会ってしまう可能性があるなら公民館とかでやったほうがいいのかなあ、と廊下を進んでいると肩を叩かれた。

「おはよう、名前。」

昨日の今日で会うとは思っていなかった人物の声に一瞬怯みながら振り返る。やはり瀬名先輩で若干機嫌が悪いようだ。

「お、おはようございます。昨日ぶりですね。」

「……アンタさぁ!なんで昨日、くまくんと喧嘩したって言わないわけぇ!?やる気ないの名前のせいってことでしょ!」

「ひぇっ、」

喧嘩!?凛月くんはアレを喧嘩だとおもっているんだ…!でも確にアレは何だったのかと聞かれれば答えに詰まる。
瀬名先輩は私に対して頬への攻撃が得意で本日も元気よく頬を伸ばしてくる。

「何が原因か分かんないけどサッサと仲直りしてきて、今すぐに。」

「いたい!瀬名先輩痛いです!ほんと信じられない!嫁入り前の女の顔ですよ…!」

私の言葉に先輩は鼻を鳴らすとぎり、と力を強めた。

「ひどい!もしこれが原因で貰い手が居なかったら先輩、責任とってくださいね!?」

私の言葉に心底嫌そうな顔をした先輩と私の間に誰かが突入してきた。先輩の手を払うその人物は凛月くんだった。

「………、」

気まずそうに視線落とした凛月君は先輩に小さい声で謝罪を入れると私の手を取り廊下をそのまま進んでいく。ぽかん、とした先輩に助けを求めるも私のSOSに気が付かない。諦めた私はどこに行くのかも分からない凛月くんに引っ張られるままになる。しかしぐるぐると同じ場所を回るので痺れを切らした私は声をかけてみることにした。

「凛月くん。」

わたしの声かげにぴたりと足を止めるとゆっくり向き直る。

「…、あの時はごめんね、名前。ずっと謝りたかったんだ。」

私と目を合わせない凛月くんは幼く見えた。
こんな所でいい歳した男女が手をとりあっていれば目を引くだろう。私は息を吐くと凛月くんに声をかけた。

「とりあえず私が借りてるスタジオおいでよ。ここではゆっくり話せないし、今日は佐々井さんも来ないよ。」

借りっぱなしのキーを見せると凛月くんの瞳が少しだけ揺らいだ。