個室の居酒屋だからか、騒音は全く聞こえなかった。安い居酒屋しか利用したことない私は雰囲気に圧され、挙動不審だったと思う。鳴上くんと瀬名先輩はさすがモデル出身と言うべきか野菜中心にバランス良く沢山噛んで食べている。一番最初に焼き鳥と泡盛!と頼んだ私を誰か抹殺して欲しいぐらいだ。

「アンタ、そんな強い酒飲めるの?」

瀬名先輩は目を見開くと信じられないと言わんばかりの顔をした。鳴上くんも口元に手を当てると まあ、と一言洩らす。まさかこんな反応されるとは思わず肩身の狭い思いでコップに口を付けた。正直、アルコールには強い。

「まあ、これぐらいなら…。」

「……馬鹿みたいに酔っ払わないでよね。」

瀬名先輩の怒る姿を想像したらついうっかりでも醜態をさらせない、とアルコールを隅に置くと焼き鳥に手を伸ばす。

「最近さあ、くまくんが元気ないんだけど、名前何か知らない?」

「げほ、」

焼き鳥が喉に詰まる。くまくんとはあのくまくんだろう。凛月君の筈だ。

「……ううん、分かんないです。」

「ほんとに?久々に再開したんだから色々話してるんじゃないの?」

先輩はソフトドリンクを片手に頬づえつくと疑わしそうに私を眺めた。すると隣に座ってた鳴上くんがぐいっと距離を詰め私の服の端を引っ張る。瞳がキラキラしててこれはめんどくさいやつだぞ、と予感した時にはもう遅かった。

「乙女のカンが男女の色恋沙汰って言うのよねぇ〜、そうでしょう!やだもうキュンキュンしちゃう!」

「は、はあ…?」

色恋沙汰。それは私達幼馴染みに一番似合わない言葉だ。そりゃあ、真緒くんも凛月くんも顔が良いから小中の頃は仲のいい私は虐められたりもあった。が、実際彼女達が危惧するような事は一切無かったしこれからもないだろう。瀬名先輩から奪ったゴボウのスティックをぼりぼり食べながら首を左右に振った。

「いや。ないかなあ。」

「え、だってあの後凛月ちゃん名前ちゃんの部屋に行ったんじゃないの!?」

「ちょっと待って。くまくんほいほい女の家に行ったわけぇ!?」

先輩がプリプリ怒り始めた。多分この間私が心配した通りスキャンダルがあったらどうするんだ!?って事だと思う。

「大丈夫ですよ、真緒くんも来てくれて帰りは2人まとめて出てもらったので。」

一応アイドルのプロデューサーだ。そういった対策を一つも知らない訳じゃない。先輩は安心したような顔をして ならいいけど、と残りのゴボウを咀嚼する。鳴上くんは納得していないようで人差し指を唇に添えて考え込んでいる。

「うーん、でも凛月ちゃんの様子は完全に恋愛に悩んでるオトコノコだったんだけど…。」

「ええ?鳴上くんの思い過ごしじゃない?」

「そうかしら…。」

だいたいアイドルが身内の恋愛沙汰に盛り上がっていいのだろうか。残念そうにサラダを口に運ぶ鳴上くんは美しかった。

「とりあえず、名前からも言ってやってよね。しっかりしろ、って。昔からアンタの言うことはアイツ聞くし。」

瀬名先輩の言葉に空返事すると隅に追いやったはずのお酒を煽って唸る。もう凛月くんには会えないんだけどなあ、というセリフはお酒と流れて消えて行った。