「はい、久しぶり〜。」
瀬名先輩は私をくるりと反転させると自分の方に向かせた。相変わらず顔だけは綺麗である。にっこりとファンに向けるような笑顔を私に見せると思いっきり両頬を伸ばした!
「いたいいたいいたい!!」
「アンッタねぇ!何年も音信不通で何してたわけぇ!?」
ぎりぎりとした痛みに涙を浮かべる。やっぱり瀬名先輩は苦手だ、とても怖い。鳴上くんが慌てて間に入ると私を先輩から引っぺがした。
「んもう!泉ちゃん、駄目じゃない、女の子はもっと丁寧に扱わないと!」
「はあ?俺は心配してやってたんだどぉ?」
心配!もっと別の表現の仕方ないだろうか。両頬を擦りながら心の中で先輩に舌を出すと時計を見て絶句した。バスの時間を過ぎている。更に落ち込むと見かねた鳴上くんが助け舟を出してくれる。
「名前ちゃん急いでいたんじゃないの?」
「う、うん。」
「久々なんだから夕食ぐらい付き合いなよ。そんな急ぎなわけ?」
夕食?とんでもない。早急に帰らせて頂きたい。私がバスの時間が…としどろもどろに伝えると瀬名先輩は携帯を取り出した。
「どっち方面?」
「ええと…。駅と反対方向……、」
「はあ?だからどこ行きかって聞いて……いや、バスとかもうこの時間1台もないんですけど。」
嘘をついたな、と言わんばかりの瀬名先輩の眼力に一瞬怯むとさり気なく鳴上くんの後ろに隠れた。
「先輩が話長いから逃しちゃったんですよ…。」
ちゃっかり先輩に罪をなすり付けるといよいよ目が三角になってきた。ひぃ、と先輩を視界からシャットアウトすると大きなため息が聞こえた。そっと先輩を見る。
「まあ、そういう所も変わってないようで何より。…で、夕飯どうする?俺、車だけど?」
嫌な笑い方をしながら腕を組んでこちらに言葉を投げかける先輩に悔しい気持ちでいっぱいになる。
「……ご一緒させて頂きます。」
私には選択肢は一つしかなかったようだ。
「そうだよねぇ、お兄ちゃんとご飯食べたいよねぇ?」
がっつり首根っこ掴まれると地下駐車場まで連行されて助手席に放り込まれる。痛いと文句を言うと鼻で笑われた。鳴上くんは後部座席でどこでご飯を食べるかウキウキでスマホを操作している。
「こんな時間に空いてるところなんてあるのかなあ。」
「あら、都内なら結構空いてるのよ。」
ほら、と鳴上君が提示してきた個室居酒屋はわりといい値段のするところだ。
「え、わたし今日はあんまり持ってないよ…。」
「多分泉ちゃんが出してくれるわよ。ね?」
「はあ?ナルくん、超ウザいんですけど。……ま、誘ったのは俺だしいいよ。」
慣れたようにハンドルをきる先輩はすごく大人になってしまっていた。