凛月は中々起きない。こっちがいくら頑張っても本当に起きない。それは大人になった今も変わらずで瀬名先輩のお達しで時間がある日は何故か俺が起こしに行っている。全く手のかかる幼馴染だと合鍵で部屋に入りながら声をかけた。

「凛月〜!起きろ、今日は仕事だろ!」

廊下で寝てることもあるし、ちゃんと布団で寝てるけともあれば、キッチンで寝てることもある幼馴染み。今日はどこで寝てるんだ?と一つ一つ部屋を開けて確認していく。リビングのドアをあけるとブランケットを肩にかけてソファーで膝を丸めている凛月が居た。よく見ると起きている。

「お、今日は起きれたんだな。」

よかったよかった、と相手の顔を覗き込んでぎょっとした。うっすらとクマがあり正気が無かった。

「え?寝てないのか…?」

肩を叩くとゆっくりと目だけこちらに向ける。唇が薄く開いて俺の名前を弱々しく呼んだ。

「名前に嫌われちゃった。」

凛月のか細い声で紡がれた言葉に首を傾ける。凛月のこの様子は見たことがある。名前が居なくなった時で、今と同じ顔をしていた。自宅にも居なくて携帯も繋がらない。名前の両親に事情を聞こうにも元々海外で活躍している2人が捕まる事がないまま俺達は社会人になった。その時の凛月は暫くこんな調子で死んだように生活をしていたのだ。

「どういう事だ…?」

凛月は首を振るとソファーにぐったりと体を預けた。この調子じゃ仕事は無理じゃないかというぐらいに元気がない。

「……仕事、いけるか…?」

「………やる気が無い。」

だろうな、と腕を組む。どうしたものか。

「…名前が泣いてたみたいで、理由を聞いたの。そしたら教えてくれなくてさ。俺には関係ないんだって。あの佐々井とか言う男の車に乗って帰ってきたしあいつには色々相談とかしたんだろうなって思うと悔しくてちょっとだけ乱暴なことしちゃった。」

昨日?と再び首を傾ける。昨日は俺は名前に会っていた。そんな様子は微塵も無かったから多分俺達と別れた後に何かあったのだろう。

「そしたらもう会わない方がいいって言われちゃって…。せっかく…探し出したのに、」

「凛月…。」

「どうすれば良かったのかな、ま〜くん。俺はただ、昔みたいに仲良くしたいだけなのに上手くいかなくて…。Knightsの参謀が1人の女の子相手にこのザマじゃ、笑っちゃうよね。」

手の甲で目元を抑える凛月が本当に辛そうで力なくソファーに投げ出されているもう片方の手を握った。

「……そっか。」

「とりあえず、セっちゃんがうるさいし仕事には行くよ。」

よっこいしょ、だなんて年寄りみたいな掛け声で腰を浮かせた凛月は寝室に消えていった。俺はなんだか複雑になってしまった幼馴染み達の関係に息を吐いた。