「………、お見苦しいところをお見せしました…。」

「いいっていいって!あんまり女の子に泣かれる事ないからびっくりはしたけど…。」

あの時、大泣きしてる私をみた佐々井さんは慌ててタオルを顔を押し当ててくれた。それを受け取ると小さく丸まって気分が落ち着くまで泣いてしまい、それに疲れてぼーっとした私を佐々井さんは車に押し込める。そのまま公園みたいな静かな所まで連れてきてくれたのだ。飲み物を渡されると半分ほど飲む。水分が飛んでいって目も心も何となく肌もしおしおしてた私は有難い佐々井さんの対応に心の中で手を合わせる。

「で?どうしたの。」

佐々井さんに、今からすっごい恥ずかしい話をするんですけど、と前置きすると私は口を開いた。

「……私、元々夢ノ咲の普通科だったんです。Trickstarがまだ結成されて間もない頃に曲を提供したり振り付け考えたり衣装とかも作ったりって手伝いをしてたんです、」

思い出すだけでじわりと視界が歪んだ。あの時は本当に楽しかった。真緒くん達の役に立てるのが嬉しくて遅い時間まで残って趣味の延長とはいえ私なりに頑張ってた。私の話を佐々井さんは静かに聞いてくれていた。私が子どもみたいにまだ拗ねている事、プロデューサーとしてイマイチ自信が無い事と話していくと佐々井さんは大笑いを始めた。驚いて肩を震わせた。

「いやあ、名字さんはほんと子供っぽい!自分でも分かってるんだ?ああ、おかしい。あと、プロデュースに関してはしっかりやってくれてると思うよ。うちの子達、名字さんに担当して貰えるまで燻ってた時期が長かったんだよ。それがテレビに出れるまでに成長している!それって名字さんのおかげなんだよね。だから、名字さんの導く力はちゃんと有るよ。そこまで悩む事ない。」

「え、あ、ありがとうございます…?」

ひいひい苦しそうに笑いながら佐々井さんは私に言葉をくれた。恥ずかしいやらなんやらで私は相手の肩を叩くと残っている飲み物を空にする。

「そんなに笑うことないじゃないですか…。私は真剣に考えてるのに…!」

「あー、まあ、Trickstarとは距離置いておけば?そのせいで曲に影響してくるのはこっちも困るし…。分野がちょっと違うしそんなに頻繁に会うことはないだろうしさ。」

考え込むように腕を組んだ佐々井さんは「考えすぎなくてもいいと思うよ。」と私に告げる。

「そろそろ帰ろうか。送るよ。」

私は少しだけスッキリした。やっぱり自分より大人の人に相談するのは解決までは行かなくても心が晴れる。とりあえず私は今出来ることをやろう。自分のことに集中すればいいんだ、と道標をもらった気持ちになった。
自宅まで送ってもらい、車を降りて佐々井さんと窓越しに会話していると後ろから名前を呼ばれた。

「名前。」

「え、凛月くん…?」

「やっほ〜、遊びに来てあげたよ。」

にこやかに笑う凛月くんが近寄ってくるが私の顔を見て一瞬立ち止まる。

「え?は…?なに、泣いたの?」

凛月くんはちらりと佐々井さんに視線を動かすとすぐに私に標準合わせた。

「あー、名字さん。早く家に入りな。」

佐々井さんはやけに明るく私に声を掛けると早く早くと手で私をはらう。私は無言で頷くと凛月くんの横をすり抜けた。今は凛月くんに会える気持ちではない。

「ちょっと、」

後ろから凛月くんが追いかけて来るのが分かった私は慌てて鍵を取り出す。しかし人間焦っている時は上手くいかないものだ。鍵穴に上手く刺さらず手こずっていると、顔の横に勢いよく手をつかれる。

「名前。」

この声は、怒ってる。

「なんで逃げるの。俺、何か悪いことした?それなら教えて。どうしたら名前は昔みたいに笑ってくれるの?」

凛月くんの声は震えていた。