Trickstarは私が1番初めにプロデューサーとして……と言っても良いのか分からないが関わったグループである。まだ衣装も、曲もなかった時に趣味で曲作りをやってた私に真緒くんからお声がかかって携わることになっていった。そこにあんずちゃんがやってきて見事にプロデューサーとしての仕事をばりばり行っていったものだから私の仕事は楽曲作り、振り付けまでに留まることになる。
少しだけ胸の奥がちくっとなって悲しかったのを覚えている。そのうち先生から転科を命じられてプロデュース科になったもののTrickstarには私の仕事なんて残ってなかった。あんずちゃんが居るなら、と身を引いたのは少しだけ後悔している。あの時もっとみんなと関わっていたらもう少し違う自分がいたのかもしれない。

「名前?」

名前を呼ばれてハッとする。いけない、いけない。

「ええと、なんだっけ。」

囲まれた私はやっぱり愛想笑いを浮かべたままだった。上手く笑えない。

「だから、今曲とかもまだかいてるの?って!」

明星くんのキラキラした瞳が眩しすぎる。

「ああ、うん。一応、昔と同じように全部プロデュースしてるよ。」

「へえ、やっぱり名前ちゃんって凄いよね。今度僕らにもまた曲かいてほしいなあ、なんて!」

遊木くんが何気なく言った言葉に私はぎゅうと服を握った。ああ、何となく息苦しいなあ。

「あはは、今は女の子の曲しか書いてないからさ。ごめんね、機会があれば。……ええと、みんなレッスンがあったんじゃないの?」

「ああ、そうだったな。あんずもそろそろ来る頃だし準備をしよう。」

氷鷹くんの号令でワラワラと散っていくのを見てほっとする。私も立ち上がると

「じゃあ、私も帰るね。」

と小走りでスタジオを出ようとした。ドアノブ握る前に扉が開いた。慌てて立ち止まると大人っぽくなったあんずちゃんとバッチリ目が合った。

「あれ、名前ちゃん…?」

まん丸になったあんずちゃんの目。私は冷や汗が止まらなかった。

「あ、うん。久しぶり…。あの、私もう行くから。」

横をすり抜けるようにして廊下を走った。ああ、もう、またやな気持ちだ。


あんずちゃんがやってきた頃、みんなはあんずちゃんを勝利の女神と呼んだし、革命だ!と言って彼女と共に戦っていた。私の方が先にみんなといたのに仲間外れにされた、と悲しくて拗ねた私は楽曲を提供するのをやめた。自分が居なくてもいいんだと理解したのはみんなが生徒会に勝った時。あれから私はどんどん性格を捻じ曲げていって今日にいたる。

「子供っぽくて嫌になるなあ。」

どす黒い気持ちに振り回され始めた私はまた曲がかけなくなりそうな予感を感じた。全部投げ出してどこか遠くに行って日本のアイドルの情報が一切入ってこない国にいきたい。いい大人のはずの私はぼろぼろと泣いていた。

「名字さん?」

顔を上げるとまだ残っていたらしい佐々井さんがキョトンとした表情で私を見ていた。泣いてる私に気がついてあたふたしている彼を見て堪えられなくなった私は声をあげて泣いたのだ。