2人が帰ったあと何故か仕事が捗り丸々一曲、とまではいかないが形が出来た。昔の気持ちが大事だったのかな、と首を傾けてみたものの分からなかった。恐らく息抜きになったんだろう、と結論付けると外出の準備をしていく。昨日佐々井さんと約束した通りお抱えアイドルの様子を見に行かなくてはならない。
玄関に立ち肩越しに部屋を振り返ると昨日の騒がしさが嘘のように静まり返っていた。まあ、そうだよね、と家を後にした。

電車に揺られると眠くなるのは人類に大体当てはまるんじゃないだろうか。電車の揺れ、温度、周波がの原因だと聞いたことがある。ある区間がそういった作用がある可能性があるという学者も居れば全ての路線に通ずるものがあるとする学者もいるようでテレビでその討論を見たことがあるのを覚えている。なんとか睡魔と戦いながらレッスン場にたどり着くと私に気がついたメンバーが走り寄ってくる。

「名前さん〜!佐々井さんから聞きましたよ、いつもより大きな所でライブさせてくれるって!」

キラキラしたメンバー4人の瞳がわたしをじっと捕らえて離さない。私は大きく頷くとスケッチブックを広げてライブ構造を説明して昨日形だけぼんやりできた曲を少しだけ披露する。4人の静かな闘士を感じるとよかった、と息をつく。

「曲が完璧に出来たら新しい衣装と振り付け、やるからね。レッスン、頑張ろう!」

はあい、と元気な声が響くと私の心もじんわり暖かくなる。仕事へのやりがいを全く感じてない訳じゃなかった。ただ、私の能力があの時から成長してるのかどうなのか、私の仕事ぶりはアイドルにとって失礼になってないかとかが心配なのだ。要は考えている事が根暗ってこと。
ダンスレッスンを見てあれこれ指示を出してからこの日は解散した。帰りにどこかに寄ろうかなと誰も居なくなったスタジオの片付けをしてると次の組が来てしまったようでドアが空いた。

「すみません、すぐ出ます。」

「あ、名前。」

真緒くんだ。と、言うことは…。

「名前ちゃん!?」

後ろから遊木くんが出てきて大きな目をまん丸にしている。

「衣更くんが言ってたことは都市伝説じゃなかったんだ…!」

みんなに話したんだ、と真緒くんをちらりと見ると どうした?といった調子で返されてしまった。

「ひ、久しぶり…。」

一気にみんなに会う勇気がない私はさっさと場を後にしようと愛想笑いを浮かべて二人の横を通り過ぎて外に出た。遊木くんが 「え、もう行っちゃうの!?」とあたふたと私に声をかける。

「仕事が…この後ね…、あって。」

「あっれ〜!?名前?名前でしょう!?俺の目は誤魔化せないぞっ!サリーの言った通りだ!生きてた!」

「ぐえっ、え?明星くん…?」

後ろから首をしめられたんじゃないかという衝撃に呻くと特徴的な笑い声に恐る恐る声をかける。

「よくできました!そう、明星スバルだよ〜!会いたかった〜!今まで何してたの?俺に教えてよ〜!」

「え、あ、また今度ね。」

そうやって逃げようとすると真緒くんに腕を掴まれた。

「まあ、待て待て待て。お前はほんとに嘘がつけないなあ。この後の仕事は嘘だろ。」

黙りこんだ私に真緒くんは笑いかけた。後ろの明星くんが背中を押してくるのでわたしは今出たばかりのレッスン室に逆戻りになってしまったのだ。

「ホッケーも後から来るよ。5人揃うのは本当に久しぶりで嬉しいなあ!」

明星くんのやけに明るい声が頭に響いて私は眉を潜めた。