シュルレアリスムに赤い糸

廊下は静かだった。とぼとぼと歩いてる私の他に人は居らず遠くの方で誰かの元気な声が聞こえるのが夢の様だ。右手で左腕を摩るように動かすと すん、と鼻を啜った。もう戻る気も失せてしまった。ごめんね、と2winkに心の中で謝る。

「あれ…?名前ちゃんだ。」

ぱっと声の方を見ればそこに居たのはあんずちゃん。沢山の資料を抱えているあんずちゃんは不思議そうに私を見ていたが私の様子に気づいた瞬間急いで寄ってきた。

「どうしたの!?」

普段の彼女から考えられないやや取り乱した表情で私に詰め寄る。痛いの?それとも辛いの?いじめられたの?とあわあわとする彼女に安心した私はぺたんと床にお尻を付いてしまった。

「あんずちゃん、私、やっぱりだめだ」

わんわんと泣きながら今までのことを吐き出すのを彼女は静かに聞いていてくれた。廊下で2人向き合って片方は子供みたいに泣いている光景は異常であるように感じるが私はもう我慢出来なかった。話を聞いて欲しかった。いつの間にかあんずちゃんは私の手を握ると資料を横に置いて持っていたタオルで私の顔をぐいぐいと拭き始める。

「私、実は名前ちゃんの事が羨ましい。」

「………え?」

「私は人を褒めるのが苦手だし、愛想もないし、見たものを感じ取る力は絶対的に私より名前ちゃんの方が上だって思ってきた。だから、感じ取ったそれを皆にちゃんと伝えられるのが羨ましい。」

時が止まったように感じた。嘘だ、そんなの嘘だ。

「だから名前ちゃんが私に嫉妬していると言った時に私と同じだなって思った。私達は2人しか居ないプロデュース科のライバルなんだ、って改めて思ったよ。だから、辞めるなんて言わないで。」

あんずちゃんの私を射抜くような視線とかち合うとじわ、と再び目に水分が溜まる。ず、と鼻水の音もする。あんずちゃんはまたタオルを私に押し付ける。

「一緒に頑張ろう。私は名前ちゃんが居なくなるのは嫌だ。頑張ろう。まだできるよ、私達は。」

「………うん、そうだね。」

やっと出てきた私の笑顔はとても見れたものではないだろう。タオルで半分以上隠れてるから多めに見て欲しいし、今は私とあんずちゃんしかいない。
…ちゃんと皆に謝ろうと固く決意をした。


関係ないのに巻き込んでしまった2winkの所に謝りに行くとわあわあと詰め寄られ特大ハグをかまされた。ごめんね、明日の練習はちゃんとやるからね、と約束して大神くんの所へ行くと彼は本当にバツの悪そうな顔をして私の前に立つと深く頭を下げた。

「プロデュース科は2人しか居ないの分かってたんだけどよ。でも、お前こね〜と羽風、センパイがめんどくせ〜んだよ。だから俺もイライラしてて。ほんとにすまん。」

「…羽風先輩が?よく分からないけど、私の練習の時けっこうサボってるから私のプロデュース嫌なんだと思うんだけど…。」

はあ〜?と大神くんは私を信じられないようなものを見る目で見ると大きくため息をついて「流石に同情する。」と呟いた。

「それは置いておいて本当にごめんね。あの、明後日は必ず練習行くから。」

「お〜、待ってる。」

ガシガシと頭を撫でてくれる、が 割と力が強いので軽く抵抗をすると面白そうに大神くんは笑う。私はそれに安心すると次の尋ね人を思って少しだけ憂鬱を感じた。そう、羽風先輩。ラスボスに対峙する時の気持ちになった私は大神くんに別れを告げると最後に先輩と会ったあの廊下を目指した。