イコロスオプ

校門で普通科の女生徒と仲良くしていた羽風先輩を見た次の日から私は徹底的に先輩に会わないように努めた。UNDEADの練習はあんずちゃんに任せっきりとなっている。朔間先輩は大喜びに違いない。あの人はあんずちゃんを溺愛しているから。
先輩は勘違いしてる。女の子が皆強引に迫られればころっと落ちると思っているんだろう。そういう先輩が嫌いだ。失礼しちゃう。

「おいてめ〜。」

この声は、と眉を顰める。ため息をついて後ろを振り返れば想像通りの人が立っている。

「なあに、大神くん。」

「なあに、じゃねぇ!」

大きな声だなと耳を押さえると更に吠えられてしまった。まったくなんだというのだ。

「大神くん、声が大きい。」

文句を言うとキャンキャンと音がしそうなくらい文句を返されてしまった。

「なんで練習こねぇんだよ!」

「行ってるじゃない、あんずちゃんが。」

「そ〜じゃねぇよ、てめ〜が来い。」

ええ、とあからさまに嫌な顔をしてやったら途端に大神くんの眉がつり上がった。感じ悪い、と彼の顔に書いてあるのを見てゆっくり弁明を始める事にした。

「悪いとは思ってるんだけど他のユニットが今いい感じで進んでて流れを止めたくないんだよね。あんずちゃんには負担かかって申し訳ないけど。それにあんずちゃんが行ったほうが3年の先輩達大喜びするじゃん。」

そう、朔間先輩とか朔間先輩とか朔間先輩とか。嘘は、言ってないつもりだった。この間からプロデュースに入っているあの双子ユニットがいい流れなのだ。ここで掛け持ち出来ればプロなんだけどまだまだ学んでいる身。許して欲しい。
上出来の言い訳だ。これなら大神くんも納得してくれるはずと視線向けると納得した顔なんて1ミリもしていなかった。

「嘘つけると思うなよ。」

流石野生。困ったなあ。

「いや、半分は嘘じゃないんだけどね。」

眉間を押さえるとううん、と唸る。彼の先輩に会いたくないと伝えるべきか。そうなると理由も言わなければならない。羽風先輩には不名誉な事だろうし後輩と大神くんには伏せて置いた方が優しさだろう。

「はあ?良いから今日はてめ〜が来いよな。」

「だから今日は2winkのところで先に約束してる。無理だから。」

「2人とも軽音部の部室につれてくりゃ良いだろ。」

はあ?と此方が文句をいう順番だった。

「なんで他のユニットと合同で練習しなきゃならないの。2人だってやりづらい筈だし却下します。だめ。」

「あいつら普段部室にいるんだし今更そんな気ィつかうわけね〜だろ。良いから連れてこい。そんでおめ〜も来い。良いな!じゃねぇとめんどくせえんだよ。」

「私が今一番面倒臭い状況なんですけど…。」

嫌だからね。とそう伝えようと大神くんを見上げると恐ろしい程切羽詰まった顔で首を傾ける。

「…とにかく2winkは広い場所で練習したいから無理。じゃあ。」

後ろで大神くんがわいわい騒いでいたけど聞こえないふりをして次の授業へ急ぐことにした。



お昼になって購買に急ごうと廊下を歩いていると後ろからずん、と重みがかかった。

「凛月くんでしょ。」

「おい〜っす。良さそうな寝床を見つけたから歩いてきてあげたよ。感謝してね。」

「いや、私は寝床じゃないんだけど…。」

困った。このままだと色々売り切れてしまう気がする。もう、仕方ないなあと凛月くんを引き摺るようにして歩くことにした。ま〜くんのおんぶが一番寝やすいだの足が地面に付いてるだの散々文句を言われながらもなんとか売店の前までたどり着くと背中の憑き物を降ろした。

「凛月くん私、お昼買ってくるから待ってる?」

「ん〜、俺も入ろうかな。」

珍しい、と驚いているともたれ掛かるように体重を掛けてきたのでなんとか踏ん張る。それが面白かったのか笑われたのでべしっと凛月くんの腕を叩いてやった。
私はおにぎり二つと凛月くんはトマトジュースを購入してじゃれ付かれながらレジに向かう。幼稚園児か!と心の中で悪態付きながら会計を済ませると再び凛月くんを引き摺りながら外に出る。くそ、あんずちゃんにはこんなに迷惑かけないくせに…!男子高校生を運べる女子高生なんてそこら辺にいると思うなよ…!

「あれ、名前ちゃん! と、…朔間さんの…」

「あ、羽風先輩。」

困った非常に困った会いたくなかったなあ、と背中にまとわりつく凛月くんを宥めながらぼんやり考えると羽風先輩の顔が暗くなっていく。

「もしかして、ファーストキスの相手って。」

「は?」

何か勘違いが起きている気がする。ああ、もう面倒臭い。帰りたい。