星滅ぼしのヨナ

私はとんでもなく間抜けな顔をしていたと思う。何たって私はキスをされたのだ。少しぐらい間抜けな顔をしてても許して欲しい。

「どう?ドキドキした?」

「訳がわかりません。」

ドキドキも何もあっという間だった。口元を手の甲で拭うとぺっぺっと払う。

「酷いなぁ。」

大して傷ついてもいないだろうに悲しそうに息を吐く先輩。

「酷いのはどっちですか。」

「初めてだった?」

面白そうにそう尋ねてくる相手に私は首を振る。残念ながら私のファーストキスは遠い昔に桃組のお友達にあげていた。

「いえ。初めてではありませんけど。」

「え」

おや?と先輩を見る。動揺した様に表情を揺らすところを初めて見たと思う。物珍しいな、と眺めていた私が間抜けだった。ぐい、と顎を持ち上げられる。

「ぐえ。」

可愛くない奇声を上げると先輩は小さく笑ってもう1度キスをしようとしてきたのである。この男懲りない。2人の唇の間に自分の掌を壁にして防御をすると先輩はぱちくりと瞳を瞬かせる。

「いい加減にしてください。」

「…真面目だねぇ。」

怒った?なんて能天気に聞いてくる目の前の男を押しのけると私はそのままその場を去る事にした。本当に付き合いきれない。



「って、事があったんだけどね。」

放課後の練習前。時間があったので双子とストレッチを軽くしながら今日あった事を報告していた時だった。そう言えば、なんて口を開いてからいやいやいや、他人の名誉に関わる事だと首を振る私に双子の好奇心が収まるわけがなかった。散々つつかれ擽られ観念した私が昼間の事を話すと双子は酷く引いていた。

「羽風先輩って趣味悪い。」

「ちょっと、どういう意味よ。」

そのままの意味だと兄の方が言うのを弟が頷いて同意なんかしたもんだから私は兄の方に飛び掛かって擽り返しやる。倍返しって流行ったよね。やめてやめてと騒ぐひなたくんを離すまいと馬乗りで押さえ付けた。ゆうたくんは私に押さえ込まれるひなたくんを見て笑っている。薄情な弟だな、と視線を送った。

「あ。」

ゆうたくんが何かを見ていたので私も何だろう、と同じ方を見てみた。
練習中だろうか。ラフな格好した羽風先輩が遠くに立っていた。恐らくこっちを見ている。
私は何だろうと思ったもののそのまま視線をひなたくんに移し教育的指導を続ける事にした。



2winkとの練習を終えた私は二人に別れを告げると帰るために正門へと向かっていた。
正門端に人影が見えた。それが仲睦まじい様子の男女だったため普通科の生徒かな、なんて思いながら通り過ぎようとして男子生徒と目が合う。羽風先輩だった。
私を見ると何かいいたげな顔をしたのが分かったが私はそれを見なかった事にした。

女性ならだれでもいいんでしょ。そういう人よね、先輩は。