「嵐くんは綺麗だねぇ。男子高校生と思えないや。」
楽しそうにお化粧をしている嵐くんを見ながらそう伝えると綺麗な瞳をきょと、とさせてこちらを向いた。
「あら、褒めてくれてる?」
「うん、わたしのお兄ちゃんと全然違うや。もっと男臭くて……なんかちがうんだよねえ。嵐くんがモデルで女子力高いからお兄ちゃんと違うのかな?」
んー、と人差し指を口元に当てて天井を仰いだ嵐くんはにこりと笑った。
「さあ?どうかしらね。」
結局答えが見つからなかったみたいで適当に返される。なんでも程よくの嵐くんはこういうところも程よくなんだなあ、と通知を知らせる携帯をいじり始める。最近仲良くなった普通科の男の子が遊びに誘ってくれているのだ。どうしようかなあ、と頬をベタりと机に付けて目を伏せた。体育祭の実行委員で知り合って何かの役に立つかもと連絡先を交換してからたくさんのやり取りをした。別に嫌ではないし行ってみようかなぁ。
「悩み事?」
嵐くんのお化粧はいつの間にか終わったみたいで椅子を寄せるとなになに?と内緒話でもするように顔を近づけてくる。私はうーんと唸ってから遊びに誘われている事を伝えた。
「……デートってこと?それで、名前ちゃんは行くの?」
「ん〜…、相手はアイドル科の生徒じゃないし1回ぐらいは行ってみようかなぁとは思ってるの。でもまあ、その…男の子と2人だなんて初めてだし緊張しちゃうし、なんか変な失敗とかしちゃったらどうしようって。」
「初めてのデート?」
嵐くんの言葉に頷くとはあ、と息を吐く。
「名前ちゃんのハジメテを貰えるその男のコは幸せ者ねぇ。ちょっと妬けちゃうわ。」
よしよしと頭を撫でられると気持ちよさに目を瞑る。ああ。寝ちゃいそう。
「でも、そんな事聞いたらホイホイ送りだせないわよね。」
いつもより少しだけ低くなった声に はっと体を起こした。びっくりした私はさぞかし間抜けな顔をしているだろう。
「デートの練習、する?」
「………ええ?しないよ。嵐くんはアイドルだもん。万が一でも誰かに誤解されちゃうのは困る。」
ぶすぅ、と嵐くんは頬を膨らませると腕を組んだ。
「誤解でもなんでもさせとけばいいじゃない。」
「何言ってるの。」
さっきよりも近い位置に嵐くんの顔がくる。
「名前ちゃんのハジメテは全部、アタシに頂戴ね。」
語尾に音符でもついてるんじゃないかと思うくらいにご機嫌に笑う嵐くん。私は意味も分からず頷く。私の携帯のバイブが鳴ると嵐くんはちらりと見てそれを取り上げた。
「約束よ。」
ご機嫌そうに笑うその顔は綺麗なのになんだか知らない人に見えて仕方なかった。