恋愛ソングが当てはまらない、と話題の曲を聴きながら思った。あんずちゃんと共に月永先輩の下、作曲の勉強を始めた。なので参考程度にとアイドルの曲をたくさんレンタルしてウォークマンに入れ込んで通学中に聴き込んでみた。そして愕然とした。何言っているのか分からない。恋愛というものをしてこなかったツケだろうか、共感することが出来なかった。
恋愛観というのは人それぞれでいいとは思うがこうも当てはまるものがないとおかしいのかもしれないと思わざるおえない。今後アイドルの曲を作る上でこれは非常にまずいのでは…?
「私、おかしいのかも。」思わずそう漏らせば何ですかとこちらを見る友也くん。大きな目と視線があった。Ra*bitsのレッスンの休憩中で他の子達とわちゃわちゃとしていたはずなのにいつの間にか近くに居て私を覗き込んでいたのだ。ぎょ、とした私は数歩後ずさった。目がでかい。
「どうしました?先輩。」
「あ、いや、別に…ううんと…。なんでもないの。」
「なんでもないって感じじゃないんですけど…。」
困ったようにあはは、と笑う真白くんは 俺じゃ頼りないですかね と呟く。あんまりにもしょんぼりするものだから何故か罪悪感に見舞われた私はおずおずと口を開いた。
「いや実にくだらない事なんだけど…。」
と、説明をすればきょとんとした真白くんはケラケラと笑った。
「あはは、先輩って面白いですね。」
「面白いって…。ひどいなあ、私は真剣なのに。」
ひいひいと真白くんは笑った後に口元を緩やかに吊り上げた。
「すみません、そんな顔しないでくださいよ。先輩の言う通りで恋愛観っていうのは本当に人それぞれなんだと俺も思います。と言っても俺はそんなにラブソングを聴かないし恋愛ってどんなものかちゃんとは分からないけど…。勉強の為に聴いてきた曲に今当てはまるものがないのなら先輩が作るラブソングって今までにない新しい曲になりそうですよね。」
「………今までに、ないもの?」
「はい。」
あれ?そうなりますよね!?と慌てる真白くんを見てなんだか憑き物が落ちたような気持ちになる。
「先輩の作る曲、ラブソングじゃなくても楽しみです。確かにテッパンかも知れないですけどラブソングに拘らなくても良いんじゃないですか?」
「そうなんだけど…。いつかぶち当たるなら今克服したいの。」
「先輩ってすごいですね。俺だったら苦手なこととか難しいこととか後回しにしちゃいますよ。」
「やっぱり私って変なのよ。」
「結局そこに行きあたるんですか?」
呆れたような顔をして真白くんが私の隣に座った。
「……先輩が恋愛経験豊富になっちゃったら寂しいです。」
「寂しいの?」
「寂しいっていうか嫌?っていうか。」
そうなの?と私は呟くと再び譜面に視線を落とした。作った曲は褒められたんだもの。問題は歌詞なのよ。
「先輩は恋したいんですか?」
隣の声に私は首を傾げた。いや、恋を無理にしたいわけじゃなくて…、ええと。
「それなら急がなくていいんじゃないですか。そういう気持ちもゆっくり知っていけば……なんて。はは。」
だめですかね〜、と頬をかいた真白くんを私はじっくりと眺めた。意見はごもっともだ。私のこんなくだらない悩みにも親身になってくれるなんて真白くん、いい子すぎる。感動した。幸い曲調がウキウキしているし私の初めとの曲はRa*bitsに捧げようじゃないの。
私がそう伝えると真白くんが瞳を輝かせた。
「え!いいんですか!?嬉しいです!早速、創達にも伝えてきますねっ。」
ぱっと立ち上がってわちゃわちゃの中に飛び込んでいく真白くんの背中を慌てて捕まえようとしたけど捕まえられなくて手が宙ぶらりんになってしまう。
まだ歌詞が全然なんだけどなあ。そうぼんやり思いながら手元の譜面を眺める。あんなに喜んでもらえるなんてお前は幸せ者だね。ラブソングにはしてあげられないかもしれないけど沢山歌ってもらえるような曲にするからね。
「先輩〜!早くレッスン始めましょう!」
真白くんの弾んだ声が優しかった。