冷たい墓土の中に居るような感覚にまず光をさしてくれたのはま〜くんだった。お日様の下に出るのはキツかったし今でも少しだけしんどい。今まで俺は色んな人間に出会ってきたしきっと今後も知らない人間に会っていくのだと思う。その中でも離したくないと思った女の子が居て柄にもなくロマンチックなプロポーズをして無事に了承を貰った時は安心しちゃったのを昨日のことのように覚えている。嬉しいと泣くあの子を思わず抱きしめたんだけど、実は俺もあの時、こっそり泣いたんだよ。それはちょっとかっこ悪いから知らないままでいてね。

「………、」

十字架の下に一足早く立った俺はあの子が来る道を見つめた。ああ、この場所をあの子は父親とやって来て俺の前に立つのかと思うとほんの少し手が震えた。だんだん不安になってくる。
あの子が選んだタキシードはなんだか俺には不釣り合いなような気がして無意識にま〜くんに視線を向ける。最前列に配置したま〜くんがかっこいいぞ、と親指を立ててくれたので何となく不安が晴れたような気がした。

「新婦の入場です。」

アナウンスがそう言うと控えめな音を立てて奥の扉が空いた。母親と向かい合ってベールを降ろされたあの子は何かを母親に伝えていた。父親の腕に触れるとゆっくりと俺の方へやってくる。段差の手前で父親と別れると俺の前に立って照れくさそうに笑ったのを見て俺もなんだか照れてしまった。ベールを上げなければ。そっとベールに触れた時だった。

「凛月くん、これからはもっと私を頼ってね。隠し事なく一緒に生きていこう。」

なんて静かな声で言われる。手元が止まってしまって目の前の女の子を見ればじわりと目元に涙を溜めている。だいすきよ、と唇が動いたのを見て俺は笑った。この子は俺を幸せな気持ちにする才能があるんだなあ。

「はは、何それ。悪くはない話だねぇ、」

ベールを上げれば隠れていた本当の顔が出てくる。いつもと違うよそ行きの化粧、ヘアメイク。全部が今日の日のためのもの。そう思うと目の前のこの子が有り得ないほど愛しく思えて今すぐ抱きしめてしまいそうだった。それはまだだめだ。せっかく段取りを練習したんだから。
キラキラとステンドグラスの窓が眩しくて目を細める。白いドレスも全部が眩しい。光を反射しすぎではないだろうか。ああでもこの子が隣で馬鹿みたいに幸せに笑ってくれているなら多少の無理はしてもいい。そう思えた事に驚いてしまう。
きっと俺の方が長く生きるだろうけどあんたが生きてる間はちゃんと俺のお世話をしてね。それの対価に俺はあんたの一生を守るから。
誓います、と隣から震えた声が聞こえて俺はまた笑った。
まったくもう、緊張しすぎだよ。