じめっとした教室は今日も動物園みたいな騒がしさで溢れている。私は机に突っ伏すと全てをシャットダウンする為に目を閉じた。わあわあわあ、と何処か遠くに聞こえる声を聞きながら確実に眠りに落ちていける、筈だった。

「名前〜、」

どすんと背中に乗る重みに内心ため息をつくもシカトを決め込む。暑い。

「ま〜くんが生徒会で居ないから代わりに甘やかしてよ〜。」

「勘弁して、朔間くん。無理。」

首だけ軽く後ろに向けて視線を投げると真っ赤な瞳とかち合う。それはそれは不満そうに頬を膨らませるとぐりぐりと背中に頭を押し付けてくる。

「ちょっと、暑いよ。」

「甘やかして〜!じゃないと俺も無理。」

そもそも甘やかすってなんだ…。衣更くんみたいにおんぶとかしてあげればいいのか…?

「う〜ん、おんぶは無理かな。」

「は…?」

え、違うの?困ったな、とさり気なく寝る体勢に入ると途端に邪魔が入る。朔間くんは年上の癖に甘えたである。幼馴染みの衣更くんにはベッタリだし隣のクラスのあんずちゃんを見つければそっちにベッタリなのだ。差詰め私はあんずちゃんのいない時のお守りぐらいに思われてるんだろうなあと後ろの重みを感じながら再び瞳をうっすら開ける。

「おもい、」

その重さが心地よくなってきたわたしはすー、と遠のいていく意識の遠くの方でもう1度朔間くんに文句を言われた気がしたけどそれに返事をする前にはもう既に眠りについていた。


ふと目を覚ますと今日室がオレンジに染まっていた。え、と辺りを見回すと騒がしかった教室は静まり返っている。目の前をみると前の席で寛いでいる朔間くん。

「おはよ〜」

「おはよ……。あ〜…、やっちゃった…。」

恐らく午後の授業は全部爆睡だったのだろう。あんまりにも恥ずかしくなった私は誤魔化すように髪を直した。

「名前、寝顔凄かったよ。」

「…朔間くん、そゆことは言わない方がもっとモテるよ。」

じとりと睨むといつものやる気無さそうな顔で笑われたので一つため息。デリカシーがなくて困る。

「ひどい寝顔は誰にも見せない方がいいよ。これは俺からの忠告。」

「はいはい、もう、うるさいなあ。」

両手で顔を覆って首を振ると楽しそうに笑う声が聞こえて恨めしく思う。ぽん、と頭に乗る手の暖かさに一瞬驚いて朔間くんを見ると見たことないくらい優しい顔をしていた。

「え 、」

「仕方ないなあ〜、名前のお世話は俺がしてあげるね。」

何かが弾けるように朔間くんの周りを飛び回る。夕日が反射してるのかな、なんて呑気に考えてる私はまだ恋を知らない小娘なのだ。