「あのさあ、私、好きな人できたんだよね。」

幼馴染で好意を寄せている女の子が携帯を弄りながらそう言った。せっかくいつものように椚先生の話を聞いてもらおうという口実の元呼び出したのに。アタシが口を開こうとした矢先になんて話をするのかしら。好きな子からのそんな爆弾に一瞬、時が止まったかのような感覚に襲われたがすぐに気持ちを立て直す。

「あ、あらぁ、貴女にもそう思える人ができたのね。ねぇねぇ、どんな人なの?」

「内緒。嵐ちゃんには教えてあーげない。」

携帯を弄りながらにんまりと笑い、そしてさらに爆弾を落とすの。

「それでね、一週間後に告白するの。」

「え、」

「だから、嵐ちゃん。私を世界で一番可愛い女の子にしてよ。」

ようやく携帯から目を離すと真っ直ぐにこちらを射抜く彼女の視線にとうとう決心をする。好きな人が幸せになろうとしているなら、それはもう仕方ない。

「…わかったわ。任せてちょうだい!」

よかった、と笑うのを見て心は痛むが好きな子を自分の思うようにプロデュースできると思うと実際心は踊ってしまう。いやね、と首を振るとまずはスキンケアの仕方から!と叩き込む事にした。



スキンケア、メイク、ヘアメイク、ファッション、一週間後に控えるその日の為に教え込んだものを実際に彼女は見せてくれなかった。そうよね、そういうのは好きな人に一番に見てもらいたいわよね、と寂しさを覚える。

「待ち合わせ場所は公園なんだよね。時間通りに来てくれるかな。」

「きっと大丈夫よ。どうなったか必ずお姉ちゃんに教えてね。約束よ。」

うん、と頷くと不安げに腕をさする幼馴染の背中を叩いた。



当日になり、やはり気になるとこちらがソワソワしてしまう。待ち合わせをしたという時間から少しだけ過ぎているが近くの公園だし、と様子を見に行くために手早く準備をすると家を出た。若干寒さの残る3月は道行く人も足早である。公園の中を覗いてみるとポケットに手を突っ込んで寒そうに時折足踏みする小さな影があった。あの子だ、と時計を見ると大幅に時間は過ぎている。相手は遅れてるのかしら、とそのまま様子を見るも三十分経ってもその影は動かない。とうとう我慢ならなくなると声をかけた。

「ちょっと、相手の男はまだなの!?」

時間も守れないなんて、そんな男に大事なこの子を任せられない、と憤るアタシを見て安堵したように息を吐いた。

「やっときてくれた。」

「え、」

意味が分からず辺りを見回すもこれといって男の姿はない。視線を戻すとしてやったりの顔。寒かったのだろう鼻の頭が赤い。

「…ねぇ、どうかな嵐ちゃん。私、世界一可愛い女の子に見えるかな。」

その言葉で彼女が誰を待っていたかを知ってしまう。今までそんな素振り見せなかったじゃない、と口元を抑えた。不安げに瞳を揺らすのを見て腕を引く。ぽすん、と軽い衝撃を受け止めた。

「ええ、とっても!世界一可愛いわ!」

腕の中の小さな体の力が抜けて「でしょう?」なんて帰ってくるもんだから二人して笑い声を上げた。
ああなんて可愛いんだろう!と愛しさがこみ上げた。