しまった。
私は鏡の前で制服を着ながら思った。スカートがキツい。太ったと理解するのと明日から新学期と思い出すのはほぼ同時だった。とてつもなく憂鬱になる。どうしよう。
どうしようと考えたもののどうにもならないのが現実で新学期を迎えた私はなるべくお腹を見せないようにしっかりと背中を丸めて歩く。
「おはよう!」
後ろから声がかかり反射的に飛び上がる。この声は守沢先輩だ。はっはっは、だなんてヒーローみたいな特徴的な笑い声を上げている先輩にあけましておめでとうございますと呟いた。
「どうした!体調が悪いのか!?声も小さいしこう、全体的にどんよりしているというか…。」
「しー!先輩しー!煩いです!」
心配してくれるのは非常に有難いがなんだなんだと視線を集めてしまっている。静かにしてほしいと言わずに気づいて欲しいけど多分気が付かないだろうと無理に先輩の口元を抑えた。驚いたのだろう、先輩がくぐもった声を上げる。
「体調はめちゃくちゃいいです。なので大きな声をださないでください…!」
「わ、わかった…!」
ごほん、と咳払いをした先輩は声を潜めた。
「それで、何か悩み事か…?」
「悩み事…、ううん、悩みといえば悩み…?」
途端にぱあ!と表情を明るくするとどんと胸を拳で叩く。
「それなら俺に任せてくれ、力になろう。」
え、と私は口元を引き攣らせた。太ったんです、なんて同性でも言うのが恥ずかしいのに男の人である先輩に言えるわけがない。そもそも力になるってなんだ…!?痩せるのを手伝ってくれる?いやいや先輩に何が出来ると言うのか。応援とか…?
「あー…、大丈夫です、間に合ってます…。」
「遠慮をするな!いつも世話になっているからな。お前が困ってる時は力になりたい!」
「あ、え〜!?」
嬉しいけど校門前でがっつり手を握られ大きな声で騒がれるとテンパってしまう。えええ、え、え!と私は呻くことしかできない。
「さあ、悩みを打ち明けてくれ!」
「ひ、」
先輩の整った顔が迫ってきたので目が回る。頭が真っ白になった。
「ふ、ふ、太ったんです!!」
冷たい空気に響く私の声。かああ、と頬が熱くなりじわりと目元が濡れるのも分かった。恥ずかしかったし先輩のポカンとした顔にどうしていいか分からずわなわなと唇を震わせた。
「……なるほどな!」
にっこりと先輩は私の肩を叩いた。
「大丈夫だ!あんまり変わったように見えないが気になるなら俺が協力しよう。走ったりだとか筋トレだとか一緒に出来ることはあるしな!共に頑張ろう!」
え、と先輩を見るとキラキラと輝く笑顔で私を見ていた。大丈夫だ!と笑う先輩はとても頼もしくて安心してしまう私がいる。
守沢先輩は間違いなくヒーローなんだな、と人々の注目を浴びながらぼんやりそう思った。