真っ暗な部屋にテレビの明かりだけがぼんやり浮かび上がっている。それが少し眩しくて目を数回瞬かせた。いつの間に寝てたんだろうかと体を起こしとりあえず電気を付けようかとリモコンを探す。あれ、見つからない。あー、今何時だ?せっかくの休みだったのに寝て過ごしてしまった。頭をぐしゃぐしゃと掻きながらベッドを手探る。
「うわ、まぶし、」
ぱちんと音がして急に部屋が明るくなる。あー、だとかうー、だとか呻いている私に晃牙くんが呆れた顔をしているのが見えた。若干、引いてるようにも見える。
「そのカッコなんとかしろよ…」
「うーん、もう夜だし良くない?」
そんなことより今日来る日だっけとあくび混じり聞く。
晃牙くんとは私の職場であるライブハウスで出会った年下の彼氏だ。ひょんなことで聴いた彼のギターの音を褒めたのが始まりである。そんな事からちょくちょく私の務めるライブハウスへ顔出すようになってしまったのも、高校生のこの子とこんな関係になるのも想定外だった。
「おら、今日は特売日だったからおめ〜の分も買ってきてやったぞ。感謝しやがれ。」
そう言って近所のスーパーの袋をぶら下げる晃牙くんにきゅんとしながらありがとうと伝える。えー、なんかめちゃくちゃ可愛いんですけど。どれどれとビニールを眺める。ふんふんこれは鍋がいけますなあ。
「成程、晃牙くんは鍋が食べたかったと見た。」
「…うっせ〜。早く支度しろよ。」
はいはいとビニール袋を受け取り去り際に彼の頭をくしゃくしゃにする。うしろでキャンキャン吠えてるのを聞きながら棚を漁って土鍋を引きずり出した。確かもらった簡易コンロみたいなのもあったはず。
「晃牙くーん、これ持ってって〜。」
あ?と奥から声がしてのそのそやってきた晃牙くんは面倒くさそうにコンロを持っていく。簡単にお鍋の用意をするとわたしもあとに続いた。
「冬は鍋が楽だね。」
「ポン酢は。」
冷蔵庫に置いてきてしまった。私が鍋の準備をしている間に晃牙くんが付けておいてくれたコタツに入ってのでもう動きたくない。私はなるべく可愛い顔を頑張って作る。
「冷蔵庫にある。お願い。」
「化粧してねえから眼力半減だぞ。」
「は?そういうこと言うなばか。」
あー、かわいくねえ!と私は立ち上がってポン酢を引っつかんで戻る。晃牙くんはすでに鍋をつついていて良さそうなのを避けておいてわたしの前に置いておいてくれていた。かわいいやつめ、とわざとピッタリ寄り添うように座り直せば警戒したようにこちらを見る。
「ねえねえ、ポン酢取ってきたから褒めてよ。」
「ガキか。」
そういいながらわたしの頭をポンポンと叩くと取り皿を私に押し付ける。
「晃牙くんありがと。」
ちゅ、と冗談でキスを投げればじとりと私を見る。お、キツかったか?とフォローしようと口を開こうとしてがぶりと噛み付かれる。呆然と彼を見ればにやりと口の端を吊り上げた。
「これぐらいはしろよな。」
私は晃牙くんは生意気だ!可愛くない!、と照れ隠しで騒ぐ。ぐつぐつと音を立てる鍋の音が心地良く部屋に響いていた。