蝉の鳴き声もしなくなった9月。私はぐったりと軽音部の部室で伸びていた。ああ、残暑が憎い。蝉だってギブアップしていったのに暑さが残る日々に嫌気が指し始めていた。夏は苦手なタイプでできれば夏は外に出たくないって思っている。8月が終わったからと言ってスグに涼しくなる訳でもないし、と大神くんがぎゃんぎゃんと鳴らすギターの音を目を伏せて聴いていた。

「大神くん、上手になったねぇ。」

「けっ、ったりめーだろーが!」

実は大神くんにギターを教えたのは私である。知り合いだった朔間先輩に声をかけられてこの子を押し付けられた時は本当に驚いたし全く困った先輩だなあ!と迷惑もした。時が経つのは早いもので、朔間先輩もあの頃からだいぶ変わって丸くなり、よぼよぼのおじいちゃんになってしまった。暫くギターを弄っていた大神くんは時計を見ると慌てて片付けを始めると出ていってしまう。予定でもあったのかな?

「ふぁ、」

欠伸をして一度伸びた私はそのまま昼寝をしようとした、が隅に置いてあった棺桶の蓋が空いて朔間先輩が出てきたので軽く手を上げる。

「やあ、先輩。遅ようございます。」

「おや、きておったのかえ?」

ゆっくりこちらに向かってくると隣に腰を下ろす。随分老いぼれたなあ、と猫みたいになってしまった先輩を横目で見る。昔はひどい俺様で更に変な人だった。現在はそういった過去を恥ずかしがる傾向にあるらしくのほほんと第二回目の3年生を過ごしている。

「大神くん、ギター上手くなった。」

「ふむ、嬢ちゃんの教えの賜物かの。」

「あと、最近アドニスくんにお肉を勧められるの。あの子可愛いから大好き。」

「アドニスくんとも仲良くしているみたいじゃな。」

「羽風先輩はあんまり話した事ないけどいけ好かないかなあ。」

「あんまりそれを薫くんにいってやるなよ…。」

他愛のない話をしていくとつん、と脇腹をつつかれる。擽ったい止めてと伝えたが脇腹、二の腕、背中、最後は頬にぶすりとやられてしまったので黙って先輩を見つめた。
先輩は何を思ったか顔を寄せ

「…あんまり他の男とベタベタしてんじゃねーぞ。」

と一言。え、と先輩を見ると両手で顔を覆い、恥ずかしい と訴えて棺桶に戻っていってしまった。
残された私のこの混乱は誰に収めて貰えばいいのかと慌てて棺桶を叩くが出てくる様子がない。
棺桶を叩く物音は暫く絶えない。