洋服を並べながらこれが誰のあれが誰の、と名札を慌ただしくぶら下げながら汚れがないかの最終チェックを行っていく。特に借りてきた衣装なんかは注意しなくてはならない。プロといえどやんちゃ盛りの子供たち。なんだかんだ油断ができない。

「ねえ、あんた。」

食べ物のシミのようなものを見つけてしまって顔面蒼白になっていた私は反射的に後ろに洋服を隠してしまった。ジーザス、余計なことしなきゃよかった。声のほうを見ると小学生のようだ。見たことあるなあ、と眉を顰めてから思いだしてしまった。何度か現場で出会ったことのある瀬名泉くんである。

「え?なにかな…?」

「控え室、何処か教えてくれない?」

「え?この先の廊下の突き当たり…」

「わかんないんだけどぉ?あんた案内してよ。」

こ、この緊急事態の時に!なんで!わかるだろ…!タイミングを呪いながら折角だからと彼の為に用意されてた洋服もひっ掴む。

「じゃあ、行こうか!」

早急に終わらせて衣装のシミを取りたい私は慌てて瀬名くんの腕を取ると引っ張るように歩く。ずりずりと引きずられるようにして歩く瀬名くんとそれを引っ張るわたし。大丈夫だろうか、誘拐犯とかに間違えられてないだろうか。

「もうちょっとゆっくり歩いてくれない?痛いんだけどぉ?」

「え?あ、ごめんね!」

「べっつにいいけど。」

控え室に通すとついでに持ってきた衣装も渡す。

「瀬名くん、これ次の撮影のお洋服だから直前で着替えてね!じゃ!」

またね!と手を振ってあのシミの衣装の所に戻ろうとすると後ろからくん、と何かに引っ張りれる。瀬名くんが私の服を引っ張っているではないか!

「せ、瀬名くん!お姉さん忙しい…!」

「はあ?」

「ひっ、す、すみません…!」

一向に離される気配の無い服をちらりと見て戸惑う。ど、どうしたら…!

「あ、あんたけっこう可愛いんだからあんまりクマとか作んない方がいいんじゃない?ちゃんと寝なよね。」

「え…?」

瀬名くんは心做しか頬を染めてそっぽを向いてしまっている。え、心配してくれたの…?
突然目の前の子供が可愛く見えて来た単純な私は頭に手を伸ばして数回弾ませる。

「ありがとう。瀬名くんもこの後のお仕事、頑張ってね。」

ぱっと手が離れた隙に廊下に滑り込んでもう1度手を振る。

「い、言われなくたって頑張るし。」

腕を組んで偉そうにしてる子供が可愛くて仕方ない私だったが廊下を歩き始めて衣装のシミを思い出したげんなりと肩を落としたのであった。