勢いとは時に成功する為の一つである、なんて言葉を本で読んだことがあるような気がする。わたしはそれを身をもって体験した。


始まりは遊木君が練習したダンスを見てほしいとやって来た事だった。「あんずじゃなくて私?」と不思議に思ったもののとりあえず中庭の広々とした空間の真ん中に立たされた私は彼の練習したとされるダンスを見ていた。
とてもゆったりしたロマンス溢れる音楽に合わせた遊木君のダンスを鑑賞する。彼がフィニッシュに綺麗な花を1輪私の方に差し出して

「君が好きです!」

とセリフをしっかり決めたところで間を置いて拍手。ぱちぱちぱち。しかし、まだダンスは荒削りだなあ、と腕を組んで最初は褒める作戦に出てみることにした。

「すごく情熱的で気持ちが伝わりやすかったと思う。手の先の動きまで繊細だった。それは遊木君の長所だと思うから100点かな。でもまだターンが怖いでしょう?そこは課題かも。」

ぽかん、とした遊木君の眼鏡がズレている。はて、なんだろうこの微妙な空間は…。

「あ、あはは……、実は今のは確かに練習の成果では有るんだけど僕なりのその、愛の告白と言うか……。」

今度は私の口が開く番だった。今の時代にこんな告白をしてくる男の子がいるのだろうか。遊木君によるとRPGもののゲームの途中でヒロインが美しい舞を踊った後にヒーローに告白をするシーンがあったらしい。それをいいな、と見ていた所夏目君に「こんな情熱的な告白をされたら女の子なんてイチコロだろうネ」と言われたらしい。
きっと夏目君のことだ。全部わかってて遊木君を焚き付けたに違いない。
恥ずかしそうに笑う遊木君は申し訳なさそうに頭をかいて

「ご、ごめんね!迷惑だったかな…」

なんて言うもんだから私はまさか!と両手を振って否定した。

「そんなことない!私こそ空気読めなくて本当にごめんね。凄く嬉しい!」

「えっ!じゃあ付き合ってくれる!?」

えっ!どうしてそうなった!と混乱する私を他所に遊木くんは1人で盛り上がってしまっている。私の両手をぶんぶんと握って これからよろしくね!と否定する暇なくまくし立てられれば私は頷くしかないのであった。