肉まんが食べたい。そう思った私はいそいそと出かける準備を始める。この時期はそういうのが美味しい季節で食べれるうちに食べないと勿体ない!

「( ピザまんがいいかなあ。どれにしようかなあ。)」

ぼんやりそんなことを考えていれば誰かとぶつかる。慌てて謝ると聞きなれた声。

「お!名前だ!」

「あ、明星くん…!」

隣のクラスの明星スバルくんがいた。あんまり積極的に関わったことは無いが同じクラスの衣更くん繋がりで少しだけ話したことがある。めちゃくちゃ元気でとても異彩を放っている人。この人は少しだけ苦手だ。押し付けがましいっていうか、あんまり人の話を聞いてない気もする。北斗くんとはよく話すがあれぐらい落ち着いてる人の方が実際話しやすかったりするのだ。

「どっかいくの!?俺もついてっちゃおーかな!」

「……、」

年頃なので分かっていただきたいが男の子の前で肉まん買いに行きます、は少しだけ抵抗があった。

「ちょっとそこまで。」

「いーね!やっぱり俺もついて行こう!」

大混乱である。どうしよう、肉まんと羞恥を天秤にかけると羞恥が勝ってしまう。諦めよう、と項垂れる。適当に飲み物を買って帰ろう。隣に並んだ明星くんは沢山お喋りをする人で声も大きいし少しだけ恥ずかしかった。もう少し小さな声で話してくれないかとやきもきするもまっったく伝わらない!
仕方なくうんうん、となるべく気配を消して会話をしていて気がついた。明星くんは会話が上手だ。あんまり話したことがない私との会話をこんなに盛り上げてくれる。

「明星くんの話は面白いね。」

「え?」

「話すのが上手。MCとかもきっとスマートにこなしちゃうんだろうね。すごいや。私は会話が下手くそだから。プロデューサーのタマゴとしてはとってもやばいんだけどね…。見習わないとなあ。」

きょと、と明星くんは大きな瞳を瞬かせた。

「えー!そんな事言われたの俺、初めてだよ〜!俺が話上手なら、名前は褒め上手だね!」

今度はこちらが呆けてしまう。明星くんはすごい。褒めたつもりが私が褒められてしまっている。

「……ありがと。」

コンビニにつくと私は適当に飲み物を取る。ああ、肉まん食べたい。あんまんでもいい、あの形でホクホクしてる何とかまんを食べたい…!
ちらりと明星くんを見る。この人さえ居なければなあ…。飲み物とついでにのど飴とと買い込むとレジに進んだ。明星くんも何か買っていたが私は肉まんへの思いが捨てきれず明星くんとわかれたらリベンジを果たそうと考えていたぐらいである。

「お待たせー!家までおくるよ!」

「え!いい!いい大丈夫!悪いし」

「えー!俺もっと名前と話したいよ〜!」

駄々をこねる明星くんの手元のビニールがガサガサと鳴り響いた。私は仕方ないと今度こそ肉まんを諦める。

「じゃあ、お願いします…、」

歩き出した私の後ろで明星くんはまたガサガサとビニールを鳴らしている。飲み物でも買ったのかなとさほど気にせず歩いていると肩を叩かれた。振り返ってから固まる。

「はい、半分こ。」

「え、え、」

差し出された半分にされた肉まんと明星くんを交互に見比べる。

「なんだか食べたそうにしてたのに買わないんだもん!俺、ずっこけそうになったよ!」

「ずっこける要素なくない…?」

「まあまあ!なんかダイエットでもしてるの?半分にしたらカロリーも半分じゃない!?」

あったまいー!とわけわかんないぐらい底抜けに笑う明星くん。肉まんと明星くんを見比べて私はそれを受け取った。ほかほかと蒸気が上に登っていくのをみて密かに胸が躍る。

「あ、ありがとう….、」

こう見えて明星くんは気配り上手なのかなと横を見ると楽しそうに肉まんを頬張る姿が目に入った。わたしも咀嚼しながら道を急ぐ。

「あ、口元汚れてる。」

一味先に食べ終わった明星くんが話し始めたのを遮って教えて上げる。口元に食べカスがついていた。

「え?どこどこ?教えて!とって!お願いします!」

「え、え、ここ。」

口の端に付いていた肉まんの生地を摘んでとってやると明星くんはわたしの腕をがっつり掴んだ。そのまま指ごとぺろりとそれを攫っていく。さらりと流された視線にどきりと心臓を煩くさせた私に笑いかけた。

「ごちそうさま。」