※佐賀美先生喋りません。

私には好きな人がいます。元アイドルでいつも怠そうに目を半分にさせて優しくてぜーんぶ分かってくる先生。そう、正解です。佐賀美先生です。 プロデュース科とかアイドル科とか私には関係ない普通科の私だけど先生のことは知ってる。向こうが覚えているかどうかなんて知らないけど。帰り支度をしていると友達に一緒に帰ろうと誘われる。それを断ると呆れた視線を頂いた。

「また先生?」

「うん。先生のこと見てくる。」

夢ノ咲のアイドル科はセキュリティが万全だけど先生へのセキュリティは結構ゆるい。先生との出会いは本当に偶然だった。体調の悪い私が保健室に行くと満室だった。あんまりにも私の顔色が悪いので困った普通科担当の先生が佐賀美先生に掛け合ってくれたのだ。特別に私は体調が整うまでアイドル科の保健室で休むことになった。正直、先生は見た目だらしないし元アイドルだなんて言われても疑うだろう。私が最初に落ちたのは声だった。優しくてじんわり響く声。はあ、すきって思ったらもう遅くてどすん、と音を立てて恋に落ちたのだ。

「先生、すき。」

普通科の3階使われてない資料室。そこは先生がハッキリ見れる特等席。先生は書類を面倒くさそうに片付けていた。コーヒーを零したり、途中に現れた男の人に怒られたりしている様子を眺める。あの日、保健室を出る前に先生から貰ったなんの面白みもない飴玉の袋を握りしめながら膝を抱えた。ああ、すきすき。先生大好き。どうしたら伝わるのかな。運命的な何かが無ければ流石にアイドル科には行けない。

神様の意地悪。こんなに難しい壁を設けなくてもいいじゃないか。なんせ私は恋をしたのは初めてだ。どうしていいか分からない。先生になら全部あげるのに。全部あげるのになあ。

だからこっちを見てよ、先生。



( ちょっと気持ち悪い女の子 )