「はぁ〜〜…。」










































河川敷で大きくため息を吐く名無し。
いいことがなかったのだろう。
その背中はずっしりと重く、なんだか浮かれない顔をしている。

いいことがなかったら河川敷に来て気持ちが落ち着くまで無心に川を見つめて落ち着かせられるのだがこの日は何故か川をいくら見つめていても気持ちが落ち着かない。

気持ちも落ち着かないので帰ろうと立ち上がると河川敷のグラウンドに誰かがやってきた。
どうやら雷門中の生徒らしい。






















「あれ…。
あれって雷門中の生徒…?
ってか雷門中ってサッカー部あったっけ…。」































見るからに自分の学校の生徒ではない男子が一人やってきた。
他には誰も居ないようだ。
こんな自生に健気に一人でサッカーの練習をする人もいるんだ、となんとなくぼんやりと見ていた次の瞬間。







ボールが名無しに直撃する。
その後綺麗さっぱり視界がフェードアウトした。





































どれぐらい気絶していたのだろうか。




気が付くと芝生の上で寝かされていた。
ボールの当たった衝撃で頭が痛い。
ふと目を覚ますと誰かが自分の顔を覗いている。



先程河川敷のグラウンドで少年だ。





























「お、目が覚めたみたいだな!
さっきはその、ごめんな、君がいた事に気づかないままボール蹴っちまって。
そしたら思いっきり当たっちゃったみたいだし本当ごめん。
あ、もしかして怪我とかしてないよな…?」


























「ううん、大丈夫だよ。私もそのぼーっとしてたから。
ごめんなさい、変に手間かけちゃって…。
私は名無し、君は何て言うの?」























「それならよかったよ、俺は円堂守って言うんだ。
よろしくな。名無し!
でもお前うちで見ない生徒だから余所の学校だよな」





















「うん、そうだよ」



























円堂は目を覚ました名無しの隣に座り、手に持っていたサッカーボールをそっと隣に置いた。
一人で河川敷グラウンドで楽しそうに練習をしていた円堂に名無しは「サッカーが好きなの?」と聞くと、ニンマリと笑顔で微笑みながら大きく頷く円堂。
その笑顔に釣られて笑うかのように自然と微笑む名無し。
































「もしかして…名無しもサッカー好きなのか?!」




























「うん。私はサッカーしたことはないけど見るのは好きだよ?
なんか青春してていいなーって」







































「そっか。
俺よくここでサッカーしたりしてるんだ、よければまた見に来いよ。
名無しが此処に来るの俺、待ってるからさ。
あ、でも今日はもう帰ってゆっくり休んどけよ、な?」





































「うん、ありがとう円堂くん。
じゃぁ私今日はもう行くね?」




























「あぁ!またなー!」































腕が引きちぎれるんじゃなかろうかと言うくらいブンブン腕を振り回す円堂。
正直まぶしい位の笑顔に名無しは少し恥ずかしくなりながらもそっと頭を下げて、同じように、とまでは行かないが手を振り返しながら帰路に足を進めた。



帰宅したその夜。
名無しは就寝の為に入った布団の中でふと帰りに出会った円堂の事を考えていた。
今日初めて出会ったばかりなのに色々と印象が強く中々頭を離れない。
そこまで会話をした訳でもないがサッカーにとても情熱的なんだと言うのは何となくわかった気がした。


それから毎日初めて出会った河川敷へ足を進め円堂のサッカーを毎日見るようになった名無し。
少しずつではあるが一緒に練習も付き合うようになったのだ。
サッカーなんて微塵もできない自分に優しく教えてくれる円堂とサッカーをするのがやがて自分自身の中で一つの楽しみになった。
そしてある日、円堂に誘われのお気に入りでもある夕日の見えるあの鉄塔広場へやってきた。



















「ここ俺のお気に入りなんだ。すげーだろ?
街も何もかもが小さく見えるんだ。」
















「うん、私も凄く好きだよ、此処…。
なんだか、あの夕日を独り占めできる感じがして見てると落ち着くし…。

ここに、雷門に、ずっと居られたらいいのに…」
















少し切なそうに声でつぶやく名無し。
円堂には聞こえないと思い言ったつもりだった。

しかしその声はハッキリと耳に入っていたのか円堂も少し寂しそうな顔をしている。

























「なぁ、ずっと雷門に居られたらいいのに、ってどういうことだ?
名無しはずっとここにいるんじゃないのかよ…?」























「あ、ごめん、独り言…聞こえちゃった?
えっとね、私来週引っ越すことになって此処を離れなくちゃならなくったの。
こんな綺麗な夕日見てたらもう少ししたら円堂くんとも、この街とも、お別れしなくちゃいけないのかなって思ったら淋しくなってさ…。」





















「そうだったのか…。でもこれで一生お別れなんかじゃないさ、俺たちはサッカーで繋がってるんだ。
もし寂しくなったら名無しもサッカーをすればいいんだ。
だから俺の使ってるボールお前にやる。」









































「で、でもこれ円堂くんの大事なボールでしょ?
もらえないよ…。」


































「同じボールはもう一個あるし気にすんなよ、それにこれは俺と名無しの友情の証だ。
このボールでサッカーしてる限りは繋がりも友情も途切れない。」


























「そっか、ありがとう。
本当はね、すごく話すの嫌だった。でも話さなきゃって思ってて此処に来たら自然と言葉に出てた。ありがとう、円堂くん。君会えてよかった。
あのね。お願いがあるの、最後の日に…もう一度此処で会いたい。」























「おう!勿論だ!
じゃぁ最後の日にまた鉄塔広場で会おうぜ。」






















────






───






──


























そして名無しが街を離れる最後の日。


この間のようにまた夕日の見れる鉄塔広場へとやってきた。





















「この間はボールありがとう。
私もね、円堂くんとの友情の証が何かあげられたらいいなって思って、これ。」











































円堂になにやら小さな袋を渡す名無し。
その袋を開けると中に綺麗に編みこまれたミサンガが入っている。
よく見ると名無しの腕にも同じ色のミサンガが付いていた。






























「これ、俺にくれるのか?」






























「うん、それは円堂くんにあげる。
私からの友情の証、例え遠くに行っても忘れないって教えてくれたのが円堂くんだから私も何かできたらなって…。」
































「ありがとう、名無し。
また必ず会おうぜ?勿論ここで、何年でも俺はお前がまたここに帰ってきて一緒にサッカーして…ここで夕日見れること楽しみにしてっからさ!」



































「うん。約束。必ずまた会おうね…。」

































笑顔が溢れ出す。
寂しさは自然と感じられなかった。

















─君に出会えてよかった。











─ありがとう。




























夕日が少しだけいつもより綺麗に見えた気がした。



































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