君がこの世界から旅立ってからどれぐらい経つのだろうか。




気づけばまたこの季節がやってきた。




君が最後を迎えたこの季節がー…。































「…元気にしてた?」































墓に花を添え静かに声をかけるヒロト。
勿論、返事は何も返ってこない。




そう名無しはもうこの世にいないのだ。
毎年名無しの命日にお墓参りするのを自分自身の中では必ず決めおり、今日がその"命日"だ。
元々体の弱かった名無しは生まれつき不治の病に冒されており、お日さま園に来た頃には既に病が進行した状態だったがそれでも瞳子は名無しの事も考え快くお日さま園へと引き取った。


名無しはよく"自分が捨てられたのは不治の病に侵されていたから"だと自分を責めていたが、自分を追い詰めては一人寂しそうにする名無しをヒロトは懸命に慰め元気付けていたのだ。
それが唯一名無しにとって生きる希望でもあり喜びでもあった。



ヒロトにとっても少しでも生きる希望を持つ名無しを見るのが嬉しくてたまらなかった。

















名無しにとっても、

ヒロトにとっても、

そんな希望が静かに消えてなくなったのは一年前の話。



















体調を急激に崩し入院生活を余儀なくされた名無しの為にと毎日少しでも時間を取り見舞いへと足を運んでいたヒロト。
しかし日に日に弱ってゆく姿を見たくないまいと段々病院へ足を運ぶことが少なくなっていったある日、名無しの命が危ない、と通達を受けた。


自分が見ていないうちにそこまで命を散らしていたなんて、と…。
理解できない現実に焦りを隠せぬまま急いで病室まで足を運んだが時既に遅く名無しは息を引き取っていた。




























「名無しさんは最後まで貴方に会いたがっておりました。一昨日くらいから様子はおかしかったのです。ですが、貴方に会えないまま逝けないとずっと呟いておりました。」


















静かな口調で名無しを担当していた医師からそう言われ隠しきれない怒りと悲しみで自然と目から涙が溢れ出す。
彼女の最後を看取ることのできなかった己を許せなかった。
己を生かす事でいっぱいいっぱいの命で自分の姿を見たいと願ってしまったから。
それなのに自分は最後に名無しに会ってやることができなかったのだ。





ーあぁ、俺はなんて無情なんだ。




最後に自分の姿を見せてやれないままこの世を去って行った名無しになんて声をかけてやれば良いのだろうか。
許してくれとは言わない、せめて少しでも名無しが安らかに眠れるのならば…。





















「君が苦しむ姿から目を背けてしまった。
いつか死んだらに会う資格なんてないのかもしれない…。」



























ふと病室の小さな棚の上に何かが書かれているであろう紙切れが置かれていることに気がついた。
よく見てみるとそれは名無しが書いたものだった。
病が相当進行していたのだろう。
一文字書くのも精一杯だった事がわかる。

















"──ありがとう。そしてごめんなさい"



















掠れて消え入りそうな文字に弱々しい字体で書かれた言葉。
ペンを握ることすらやっとだったのだろう。
名無しは自分の死期が近い事をわかっていていたのだ。

































「なんで…。なんで名無しが謝るんだ。
謝らなきゃ行けないのは…俺なのにさ。





でも、これだけは言える。




ありがとう。」



















"ありがとう"と言う言葉になんだか名無しの顔が少しだけ微笑んだ気がした


泣くだけじゃいけない。
泣いていたら名無しがまた謝るかもしれない。
今までずっと笑顔をもらったんだ。


















「今度は約束する、

君が旅立った"今日"にもう一度会いに来るって。


そして伝えるんだ。













"大好き"だってね。」




















──



────





─────
















それから一年経って今日がその日。
約束したとおりその"今日"に会いに来た。


─そう、あの日誓った約束のために。























「君が生きているうちに伝えるべきだったんだろうと思うけど、名無しが大好きだ。
だから俺がもし死んだらもう一度君に逢って同じように伝える。
それまで待っていて欲しい。必ず逢いに行くから。」

































いつ逢えるかわからないけど、必ず逢いに行くのだと決めた。
最後に会えなかったあの日の君の願いを果たすため。




そう優しく呟くとそれに応えるかの様に心地よい静かな風が吹いた。





















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少しでも泣けそうな話になればいいかと思いました。

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